artscapeレビュー
2009年11月01日号のレビュー/プレビュー
大巻伸嗣 絶景
会期:2009/08/01~2009/11/08
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
大巻伸嗣の個展。「環境とゴミ」をテーマにリサーチを重ね、ゴミを焼却処分された後に生成される「溶解スラグ」を用いた新作など、3点を発表した。《真空のゆらぎ スカイライン》は、1階に富士山のような円錐型の山塊を置き、その上部にあたる2階をまるごと溶解スラグで埋め尽くしたもの。物質の形体を整えて美的な効果を狙うアーティストが多いなか、大巻はむしろ物資の膨大な量で鑑賞者を圧倒する。映像インスタレーションの《言葉の無い予言》も、溶解スラグで造成した「黒い砂浜」で湾岸の映像を見せる作品だが、これは都市の環境問題を鋭く告発することはもちろん、「黒い砂浜」の物質的な強度を見せつけることによって、形式美を追及するアートが快適で心地よい「白い砂浜」を上書きしているにすぎないことを批判的に暴き立てているように見えた。どちらが社会的に有意義であるかは、一目瞭然だろう。
2009/09/25(金)(福住廉)
ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし
会期:2009/07/18~2009/09/27
東京都庭園美術館[東京都]
針と糸を使いこなすアーティストを集めた展覧会。秋山さやか、伊藤存、竹村京、手塚愛子、村山留里子など、8組のアーティストが作品を発表した。なかでも際立っていたのが、夜警の仕事をしながら針仕事に没頭する奥村綱雄と、千人針のように縫い玉を繰り返しつくる吉本篤史。幾度も幾度も針と糸を突き刺すことで、まるで抽象画のような画面をつくり出す奥村の作品は、その執拗な反復の痕跡と手の平に収まるような小さなサイズが、奥村自身の偏執的な私性を強く醸し出していた。また千人針には無数の他者からの呼びかけが込められているのにたいし、吉本の作品にはむしろ自分からの呼びかけと自分による応答が反響しており、その自己完結したコミュニケーションのありようが、逆に鑑賞者の興味を強く刺激していた。両者は、みずから閉じること(縫合)によって社会的に開く(開示)という表現がありうることを示していたと思う。
2009/09/27(日)(福住廉)
伊佐治雄悟 展 ボトル/bottle
会期:2009/09/28~2009/10/03
ギャラリイK[東京都]
伊佐治雄吾は、凡庸な日常用品を加工することでその美的な側面を浮き彫りにするアーティストだ。ボールペンの先端に熱を加えて、まるでガラス細工のように丸く膨張させたり、洗剤のボトルの表面をカッターで念入りに切り刻み、幾何学模様を描き出しながら分解したり、なんでもない素材が隠し持っている美しさを巧みに引き出している。切り刻まれたボトルは奇妙に伸張しているが、それは可塑性のあるプラスティックにちがいないとはいえ、じっくり見ていくと天に向かって育ちゆく植物のようにも見えてくるから不思議だ。人工的で無機質な素材にすら有機的な生命を感じてしまう、わたしたち自身の偏った癖を体現しているかのようだった。
2009/09/28(月)(福住廉)
川上大介 個展 [approach to sign]
会期:2009/09/29~2009/10/04
ギャラリー揺[京都府]
山中を歩き、獣道を見つけたら地面に板状の陶土を設置。1週間ほど後に回収し、動物の足跡や落ち葉が刻印された陶板として展示する。陶芸の一種とも、ランドアートの一種とも解釈できる珍しい作品だった。カテゴライズは不可能だが、その分未知の可能性に満ちた表現とも言える。テキストや映像で綿密に記録しておけば、ドキュメントとしても魅力あるものになるだろう。
2009/09/29(火)(小吹隆文)
「変生態_リアルな現代の物質性」Vol.4 東恩納裕一
会期:2009/09/12~2009/10/10
galleryαM[東京都]
キュレイターの天野一夫が企画する連続展の4回目。今回は東恩納裕一が、彼の代名詞ともいえる蛍光灯を組み合わせたシャンデリアをはじめ、ストライプ、ドレープ、モアレなど、これまでの作品を全面的に発表した。新たに展開していたのは、木目調の床材を壁面に貼りつけていたこと。ストライプが縦方向に貼りつけられていたのにたいし、床材は横方向に貼りつけられていたが、その交錯するラインとモアレの縞模様が出会うと、視覚的な混乱状態を味わえる。光と線と色を織り交ぜた、じつに絵画的な空間だった。
2009/09/29(火)(福住廉)