artscapeレビュー
2009年11月01日号のレビュー/プレビュー
山本聖子 個展 空の風景
会期:2009/10/12~2009/10/17
コバヤシ画廊[東京都]
新聞の折り込み広告に必ず入っているのが、単色刷りの住宅情報。山本聖子はそれらを丹念に収集し、そこに印刷された間取り図を丁寧に切り取り、赤系のものを床に敷き詰め、青系のものを壁に水平方向に連結させながら展示した。白い壁の前に連続して立ち並ぶ間取り図は、線だけを残して面をすべて抜き落としているので、抜け殻のように頼りなく、複雑に組み合わされた青いフレームだけが眼に飛び込んでくる。間取り図が人びとの欲望が投影される器だとすると、山本が示したのはそうした欲望の視線に貫かれた後の残骸なのかもしれない。その亡骸が住まいをめぐる私たちのリアリティを強く刺激することはまちがいない。なおかつ、それらが生前の営みを想像させるところがまた、大きな特徴である。
2009/10/17(土)(福住廉)
GEISAI#13
会期:2009/10/18
Kaikai kiki 三芳スタジオ[埼玉県]
アーティストの村上隆が仕掛ける「GEISAI」の13回目。場所を臨海エリアの東京ビッグサイトから、埼玉県内にあるカイカイキキの倉庫に移し、規模も大幅に縮小、審査員による審査や賞の授与もなく、しかもテーマは「貧」。日本の若きアーティスト予備軍を「富」へと先導(扇動)してきた本展にも、昨年来の世界的な経済不況のあおりが直撃したということなのだろうか。とはいえ、次回は再び臨海部に立ち返るらしいので、これは根本的な方向転換などではなく、絶えず変動する経済状況にフレキシブルに対応する「戦略」の現われと考えるべきだろう。だが片田舎の会場には文字どおりどこかの美大のようなうら寂しい雰囲気が立ち込めており、等身大の原点に立ち返ったといえばそうなのかもしれないが、世界のアートシーンに打って出るという華々しい物語の片鱗はどこにも伺えず、そのあまりの開き直りぶりに愕然とせざるを得ない。世間が貧困問題に注目しているからといって、それをそのままテーマとして持ち出してみたところで、そこにいったいなんの「芸」があるのか。むしろ、そうした貧しい時代だからこそ、逆説的に「富」への夢に現を抜かしながら、やせ我慢を貫き通すことが、村上隆の強みではなかったか。「GEISAI」というプロジェクトが、表面的な印象とは裏腹に、じつに現実的で凡庸な、したがってあえて「アート」というほどでもない試みだったことが露呈したのが、本展である。
2009/10/18(日)(福住廉)
新incubation1-ベテランと若手作家が出会う Real Life Sensibility─物とイメージの往還から
会期:2009/10/27~2009/11/23
京都芸術センター[京都府]
これまで主に新人作家の紹介を行なってきた「incubation」が、その内容を一新。若手とベテランが一対一で向き合い、その共鳴を確かめる場となる。1回目に選ばれたのは、碓井ゆいと高柳恵里。今年春に京都の元小学校で行なわれたグループ展で、壁紙付きのベニヤ板が教室に散乱する鮮烈なインスタレーションを発表した碓井と、既成品に最小限手を加えることで物事や状態が成り立つ本質を露わにする高柳。作風も世代も異なる2人が対峙することで、どのような世界が立ち現われるのか楽しみだ。
2009/10/20(火)(小吹隆文)
Exhibition as media 2009「drowning room」
会期:2009/10/31~2009/11/23
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
1996年から2005年にかけて開催された「神戸アートアニュアル」のセカンドステージとして、一昨年より始動した企画展。神戸アートビレッジセンター主催の美術展のなかで、若手主体の「1 floor」と並ぶ中心的な催しである。その特徴は、出品アーティストが主体的に展覧会を作り上げるアーティスト・イニシアティブと、その間の活動記録をブログで発信していくワーク・イン・プログレス的なライブ感だ。今回選ばれた作家は、大﨑のぶゆき、田中朝子、冨倉崇嗣、中川トラヲ、森本絵利の5名。ジャンルと作風が異なる彼らが濃密に接触することで、どんな化学反応が起こるか要注目だ。
2009/10/20(火)(小吹隆文)
「野兎の眼」松本典子 写真展
会期:2009/11/03~2009/11/28
約10年間にわたりひとりの被写体を追い続けた写真展。少女が大人になり、母親になる過程が、奥吉野の自然や季節とともに綴られる。特定の個人と長期間パートナーシップを結ぶことで初めて得られる確かなリアリティ(絆と呼ぶべきか)、そしてプリントに凝縮された時間を体感したい。
2009/10/20(火)(小吹隆文)