artscapeレビュー

2010年02月15日号のレビュー/プレビュー

うつゆみこ「はこぶねのそと2」

会期:2010/01/08~2010/01/31

G/P GALLERY[東京都]

昨年同じギャラリーで開催された「はこぶねのそと」の続編というべき個展。アートビートパブリッシャーズからうつゆみこの最初の写真集『はこぶねのそと』が刊行されたのにあわせて、旧作に未発表の新作を加えた勢いのある展示になっていた。
うつゆみこのキッチュ+ポップ+グロテスクの三位一体の作品群は、発想、手法、仕上げとも完全に安定期に入っているように見える。レベルの高い作品を次々に生み出すことができるようになり、手を替え品を替えてマンネリズムをうまく回避している。今回は古典的な肖像画のスタイルをうまく取り込んでおり、以前ほど派手さはないが、古代遺跡から発掘された人類学的な遺品の集積といった趣も感じさせる。メキシコ辺りの土産物屋の店先に実際に並んでいてもおかしくないような、やや渋めの作品も多い。ただ、ここから先どんなふうに彼女の作品世界が展開していくかが、楽しみであるとともにむずかしい所にさしかかっているとはいえるだろう。とはいえ、生産力と引き出しの多さは同世代の作家の中でも群を抜いている。さらに見る者を驚かせるような奇想を全面展開していってくれるのではないだろうか。

2010/01/08(金)(飯沢耕太郎)

DODO EXHIBITION

会期:2010/01/08~2010/01/10

ギャラリー街道[東京都]

写真家、尾仲浩二が主宰するギャラリー街道で「百々一家」の作品展が開催された。「百々一家」というのはビジュアルアーツ専門学校大阪の校長でもある百々俊二とその二人の息子たち、百々新、百々武の三人である。親子で写真家という例は、それほど多くはない。視覚的な才能が遺伝することはめったにないし、父親の仕事の大変さを身近に見ていると、別な道を選びたくなるのではないだろうか。「百々一家」の場合は、息子たちが同じ写真の世界でも、それぞれ父親とは違った方向に自分の才能を発揮するということがうまくいった希有な例だと思う。
今回の展示では百々新がカスピ海沿岸のロシア、アストラハンを撮影した《Caspian Sea- Russia》を、百々武が奈良県南部の集落や修験道の行事にカメラを向けた《八咫烏》のシリーズを出品している。しっかりと腰を据えたカラー・スナップで悪くはないが、「百々一家」の親分である百々俊二のモノクローム作品《1968─1969 飯塚─東京》でやや存在感が霞んでしまった。福岡県飯塚市の炭坑地帯の荒涼たる風景と、1969年の騒然とした学生デモの状況を体当たりで撮影した19~20歳頃の写真群だが、一人の若者が写真という表現手段を手にして、手探りで現実世界に肉迫していく切迫した感情のうねりが伝わってくる。この三人の写真があわさった時にあらわれてくる眺めはなかなか気持がいい。またいつか同じ顔ぶれの展示を見てみたい気がする。

2010/01/10(日)(飯沢耕太郎)

木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし

会期:2009/11/28~2010/02/07

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

手堅い企画だと思う。写真に少しでも興味があれば、この二人の“ライカの巨匠”の名前くらいは知っているだろうし、展示も東京都写真美術館をはじめとして日本の美術館の収蔵作品を総ざらいしているので、なかなか見応えがある。内容的にも、それぞれの作風の共通性と違い(木村の柔らかな融通無碍の構図と、カルティエ─ブレッソンの幾何学的な画面構成など)がよく伝わってきた。実際に祝日ということもあって、作品の前をぎっしりと埋め尽くすような観客の入りだった。
ただ、こういう有名写真家の展示なのだから、逆にもう少し冒険も必要なのではないか。二人の作品を分けて展示するのではなく、対照させつつ相互に並べるといった試みも考えられると思う。キャプションにも、もう一工夫必要だろう。木村のパリ滞在時におけるカルティエ=ブレッソンとの交友のエピソードなどをうまく散りばめれば、もっと観客を引き込むことができるのではないだろうか。面白かったのは最後のパートに置かれた二人のコンタクト・プリント(密着ネガ)の展示。撮影時の生々しい息づかいが伝わってくる。二人とも「決定的瞬間」を見つけだし、定着するために、粘りに粘ってシャッターを切っているのがわかる。たとえば木村伊兵衛の名作《本郷森川町》(1953年)は9カット連続して同じ場所を撮影したうちの7枚目、《板塀、秋田市追分》(同)は6カットのうちの5枚目だ。このしつこさが、スナップショットの名人芸を支えていたことを見過ごしてはならないだろう。

2010/01/11(月)(飯沢耕太郎)

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『DECADE』

発行所:宮城大学

発行日:2007年3月31日

宮城大学事業構想学部空間デザインコースの有志らがつくる機関誌。大学創立10周年の2006年に±0号をつくり、以後、毎年一冊を出している。取材、編集、執筆は、主に有志学生によるもの。学生の作品や大学での活動を中心に紹介するほか、巻頭ではこれまで吉岡徳仁、中山英之、重松象平らにインタビューもしている。そのクオリティの高さにも驚かされ、ほぼ学生だけでつくっているようには思えない。その背景の一つには、DTPの進化もあるだろう。地方大学からの発信という点にも、『DECADE』の意義がある。編集チームは、東京からの300kmの距離を意識しているという。地方大学から発信したメディアが、東京の書店や大学などにおかれる、あるいは別の地方に置かれるという動きは、地方のアイデンティティ確立に寄与するだろう。その動きの一つとして『DECADE』のこれからに注目したい。宮城は、せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦も行なわれており、確実に建築における新しい情報発信の拠点の一つとなりつつある。

2010/01/12(火)(松田達)

曽谷朝絵 展「鳴る色」

会期:2010/01/08~2010/01/31

資生堂ギャラリー[東京都]

正月返上で原稿カキカキ、ようやく入稿して銀座へ。曽谷さんの個展は、新進アーティストの活動をサポートする「シセイドウ アートエッグ」のひとつ。真っ白な壁と床に、色とりどりのカッティングシートを波紋状に切り抜いて貼りつけている。絵具をぶちまけたような色彩のインスタレーションだが、仕上げはとてもきれい。ZAIMで試みていた実験が実りましたね。タブローだけでなく、このような場所に応じたインスタレーションも身につけたか。

2010/01/12(火)

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