artscapeレビュー
2010年02月15日号のレビュー/プレビュー
横浜美術館開館20周年記念展「束芋:断面の世代」
会期:2009/12/11~2010/03/03
横浜美術館[神奈川県]
鎌倉から横浜へ移動し束芋展へ。12月も来館したが、電気トラブルのせいでほとんど見ることができなかったのでリベンジ。スクリーンと空間がどれも独特の鋭さとジメジメした暗さの魅力、その迫力をいっそう引き立てる面白いインスタレーションだったけれど、なんとなく全体的に消化不良の気分が否めなかった。集合住宅をモチーフにした作品以外の映像作品はビジュアルイメージのみが運動的にパターンとして繰り返されている印象のほうが強く、束芋が表現する「断面の世代」の感覚がなかなか掴みきれなかった気がして残念。この日の私自身のコンディションのせいが大きかったのかもしれないが。
2010/01/17(日)(酒井千穂)
東京芸術大学先端芸術表現科卒業/修了制作2010
会期:2010/01/16~2010/01/24
BankARTスタジオNYK[東京都]
いつになく暗い。物理的に暗いなかで見せる作品も多いが、それより死とか血とか貧とかネガティヴなものをあつかった作品が目につくのだ。貧乏で血に飢えて死期が近い私の気のせいだろうか。それ以外で気になった作品をあげると、カーペットと壁に家具の痕跡だけを残した(描いた)山田繭、ショベルカーの表面の塗装がなくなるまで磨いた柏崎由璃香。しかしこれらもある意味で「ネガティヴ」だ。一方、厖大なドローイングを見せた文谷有佳里と老田真衣や、クレーン車に筆をもたせてドローイングさせた鄭萬英は、少なくとも生産的な「描く」という行為に賭けている点でポジティヴに見える。だが見方を変えれば、日々ドローイングに逃げているともいえるし、機械に描かせるしかないという諦念が感じられるのも事実。やっぱり暗いな。ウクライナ。
2010/01/18(月)
東京芸術大学先端芸術表現科卒業/修了制作2010
会期:2010/01/16~2010/01/24
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
いつになく暗い。物理的に暗いなかで見せる作品も多いが、それより死とか血とか貧とかネガティヴなものをあつかった作品が目につくのだ。貧乏で血に飢えて死期が近い私の気のせいだろうか。それ以外で気になった作品をあげると、カーペットと壁に家具の痕跡だけを残した(描いた)山田繭、ショベルカーの表面の塗装がなくなるまで磨いた柏崎由璃香。しかしこれらもある意味で「ネガティヴ」だ。一方、厖大なドローイングを見せた文谷有佳里と老田真衣や、クレーン車に筆をもたせてドローイングさせた鄭萬英は、少なくとも生産的な「描く」という行為に賭けている点でポジティヴに見える。だが見方を変えれば、日々ドローイングに逃げているともいえるし、機械に描かせるしかないという諦念が感じられるのも事実。やっぱり暗いな。ウクライナ。
2010/01/18(月)(村田真)
中沢新一『アースダイバー』
発行所:講談社
発行日:2005年5月30日
縄文海進期の地図を現在の東京に重ね合わせることによって見えてくる、新しい東京論。氷河期の後の縄文時代は、氷河が溶け、海面がかなり上がっていた。現在の東京の下町一帯は海で、山の手にも奥深くまで海が入り込み、フィヨルド上の地形となっていた。中沢新一は、その縄文の東京にダイビングし、大地に耳を傾ける。中沢によれば、縄文時代の洪積層と沖積層の境界を書き込んだ地図に、神社や古墳など霊的なものが感じられる場所をプロットしていくと、決まってそれらは両者の境界、つまりフィヨルドの岬の部分に位置しているのだという。そしてそこだけ時間の流れが遅れているのだと。このアース・ダイビング・マップを持って、中沢は東京を歩き回り、エロスとタナトスの香りに満ちた文体で、都市の姿を描き直す。さて、本書自体は5年前に出版された本であり、すでによく知られている本であろう。ところで、建築分野で同じような視点で都市を捉えようとしている二組挙げておきたい。まず皆川典久を会長とし、石川初を副会長とする東京スリバチ学会(2004-)。中沢が突き出した形の岬に注目するのに対し、スリバチ学会はすり鉢状にへこんで囲まれた場所に注目して都市を見る。また宮本佳明、中谷礼仁、清水重敦らは、『10+1』37号(2004)で「先行デザイン宣言」を行なった。宮本は過去のかたちに影響を受けた風景のほころびを「環境ノイズ」と呼び、そのエレメントを集める。中谷は都市に潜在する過去の形質を「先行形態」と呼び、過去と現在との関係を検討する歴史工学という学問分野を立ち上げた。いずれも現在に過去が大きく食い込んでいることに注目して都市を見る視点であり、2004年から2005年頃、新しいタイプの都市論が同時期に現われてきたことは興味深い。
2010/01/20(水)(松田達)
迫川尚子「日計り 空隔の街・新宿」
会期:2010/01/16~2010/02/26
日本外国特派員協会(外国人記者クラブ)[東京都]
新宿駅東口構内のカフェ、ベルクの副店長である迫川尚子は、店の行き帰りに目にしたものを、カメラを手にスナップをしてきた。その20年近くにわたる新宿界隈の撮影の成果は、2004年に写真集『日計り』(新宿書房)にまとめられて好評を博した。今回は、日比谷の外国人記者クラブ内のメインバーと寿司バーの壁面という写真展にはやや不似合いな場所に、全倍に大きく引き伸ばされた写真がゆったりと並んでいた。写真から新宿の光と空気感があふれ出してくるようで、なかなかいい展示だと思う。
迫川の被写体になっているのは、商店街、路地裏、ダンボールハウスの居住者を含む住人たちなどである。新宿という土地を隅々まで知り尽くし、身体化していないとなかなか見えてこない光景だろう。それらのどちらかといえば雑然とした、薄汚れた眺めを,日の光があまねく照らし出している。カメラを向けた瞬間に目に飛び込んでくる光の助けを借りつつ、迫川はそこに存在する事物や人間や動物たちを、等価に、慈しむようにモノクロームのフィルムにおさめていく。そうやって蓄積された写真群は、どこか懐かしく、温かみをともなって観客に届いてくる。これが日本の都市の原風景なのだと、外国人記者たちに誇りたい気分になる。
2010/01/20(水)(飯沢耕太郎)