artscapeレビュー
2010年07月01日号のレビュー/プレビュー
辛酸なめ子 展「オーブの記憶」
会期:2010/05/31~2010/06/12
森岡書店[東京都]
辛酸なめ子の個展。写真に写りこむオーブ(玉響)がテーマで、オーブをとらえた写真やオーブについての漫画の生原稿、オーブのグッズなどを展示した。目に見えないものを見えるようにするのがアートの役割だとすれば、目に見えないものに特別な意味を与える心霊現象とアートはかなり近い。
2010/06/03(木)(福住廉)
熊澤未来子 展
会期:2010/06/02~2010/07/03
MIZUMA ACTION[東京都]
鉛筆による緻密な描写で知られる熊澤未来子の新作展。重力の圏内から投げ出されたかのような浮遊感を漂わせながら、人物とモノ、そして都市がダイナミックに揺れ動く運動性が特徴だが、今回の個展でもその才覚は遺憾なく発揮されていた。画面もかなり大規模になり、モチーフも以前にも増して錯綜してきた。2008年の五美大展では空中を蛇行する通勤電車とセーラー服の女子高生がモチーフになっていたが、今回発表された作品のなかではヌードの巨大な女性がタクシーを操りながら疾走するものが圧巻。広い意味での女性性がテーマとなっているようだが、そこから社会批判やジェンダーの問題を容易には読み取らせないほど痛快で迫力のある画面構成が何よりの魅力である。
2010/06/04(金)(福住廉)
秋山祐徳太子 高貴骨走
会期:2010/05/28~2010/06/27
AISHO MIURA ARTS[東京都]
ポップ・ハプニングの秋山祐徳太子による新作展。70年代に二度にわたって立候補した東京都知事選挙の選挙運動のポスターやその記録映像、ライカ同盟での写真、そして近年取り組んでいるブリキ彫刻《ダリコ佛》などを発表した。これまでの回顧展といえなくもないが、過去への回帰志向というより、現在と未来への志向性を強く感じさせていたのは、展示の全体がブリキ彫刻を中心に構成されていたからだろう。大小さまざまな《ダリコ佛》が立ち並んだ様子は、三十三間堂の千手観音立像といえば大袈裟だが、それに近い壮観な雰囲気をもたらしていた。そこには、アヴァンギャルドの古典回帰などではなく、むしろ老いてなお前進することをやめない、瑞々しくも高貴な高齢者の力強い足どりがあった。
2010/06/04(金)(福住廉)
今津景 フラッシュ
会期:2010/05/22~2010/06/19
山本現代[東京都]
2009年のVOCA賞で佳作を受賞した今津景の個展。光のゆらめきが世界全体にまで及んでしまったかのような夢幻的な光景を描く。不安定な動きに満ちた画面は、直接的には大洪水や大火災などのカタストロフィーを連想させるが、同時に悦楽や官能性も強く感じさせるという、不思議な魅力がある絵だ。
2010/06/04(金)(福住廉)
横山裕一 ネオ漫画の全記録:「わたしは時間を描いている」
会期:2010/04/24~2010/06/20
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
漫画家・横山裕一の大規模な回顧展。腰の高さの台に漫画を並べ、それらを連結してトラック競技場のように一周させるというインスタレーションを見せた。漫画を読み進めていくうちにいつのまにかトラックを一周しているという仕掛けだ。永劫回帰的な時間構造を反映させたのかもしれない。その漫画は、登場人物たちが無言のまま、ただ物語が無目的に進行していく「ネオ漫画」。フキダシのなかの台詞とともに読むことに慣れた目には抵抗が少なくないが、それでもオノマトペが次第に過剰になり、ついには登場人物を後景に隠してしまうほど極端に巨大化するなど、視点を変えれば、おもしろい。漫画という形式への鋭い自覚と脱構築する意欲。そこから生まれる「ネオ漫画」が、漫画に成り代わろうとするのか、あるいはサブ・カテゴリーとして持続していくのか。
2010/06/05(土)(福住廉)