artscapeレビュー

2010年07月15日号のレビュー/プレビュー

原美樹子「Blind Letter」

会期:2010/06/04~2010/06/13

サードディストリクトギャラリー[東京都]

サードディストリクトギャラリーで5月から開催されてきた「そのままのポートレイトを見たい」というストリート・スナップの連続展示。気がついたら、阿部真士、星玄人、山内道雄の回は既に終わっていて、原美樹子の展覧会にようやく間に合った。原の次には6月15日~23日に川島紀良「Zephyros」展が開催される。スナップ写真がどんどん撮りにくくなっている状況を問い直そうとする、意欲的な企画だと思う。
さて、原美樹子は1990年代半ばから、ふわふわと宙を漂うような6×6判のカラー写真のスナップを発表し続けてきた写真家だが、初期から近作までかなりざっくりと構成した今回のような展示を見ると、その視線や画面構築のシステムの特徴がよく見えてくる。彼女が使っているカメラは1930~50年代にかけて製造されたスプリング式の6×6判カメラ、イコンタシックスだそうだ。現在のデジタルカメラのような精密機械ではなく、かなり「ゆるい」機構を備えたカメラだ。フィルムに光が入ることもあるし、ストラップが写ってしまったり、フレーミングが傾いたりした写真もある。このようなカメラをあえて使うことで、身体的な反応と実際にできあがってくる画像との間に微妙なズレが生じてくる。それが逆に思いがけない何かを「呼び込む」ことにつながっていくのではないだろうか。原のような日常スナップでは、いかにしてこの微妙なズレを保ち続けるかが重要になってくるが、彼女の場合、それを古いカメラのメカニズムに委ねているのだろう。そこにあの独特の間や余韻が生じてくる秘密があるのではないかと思う。

2010/06/04(金)(飯沢耕太郎)

wks. X vision:亀谷彩漆作品展

会期:2010/05/17~2010/06/05

Gallery wks.[大阪府]

過去作品と新作を併せて展示することで、広がりや深みを増していく作家の表現世界をより鮮やかに見せようと企画されたシリーズの第一回目。トップバッターは漆作家の亀谷彩。動物の毛皮、鳥の羽根、シカの角などがあしらわれた道具や器など、祭祀の場をイメージさせる会場は、緊張感にも包まれた全体の雰囲気自体が美しい。ひとつずつを見ていくと、技法、色、質感もじつに多様で、塗装の感触や漆黒の層の表情など、ひとことで漆と言っても奥深いなあと、古来からハレの場で用いられてきた漆そのものの性質と魅力に改めて納得した。ハレとケの区別も薄らいだいまの生活では儀式や神事も遠い感覚だったりするが、不思議なデザインの道具類の用途や文脈に連想も誘発されて作家の自由な想像力とセンスに感動。

2010/06/05(土)(酒井千穂)

フェリックス・ティオリエ写真展 いま蘇る19世紀末ピクトリアリズムの写真家

会期:2010/05/22~2010/07/25

世田谷美術館[東京都]

フェリックス・ティオリエ(1842~1914年)はフランス南部の都市、サン=テティエンヌに生まれ、当地でリボン製造の工場を経営して財産を築いた。1879年に若くして引退後は、写真撮影、考古学研究、出版活動、画家たちとの交流などで余生を過ごした。フランスはいうまでもなく写真術の発祥の地で、19世紀から20世紀にかけて多くの偉大な写真家たちを生み、多彩な活動が展開された。だがティオリエはパリを中心とした写真界の中心から距離をとっていたこともあり、これまでその仕事についてはほとんど知られていなかった。その作品のクオリティの高さが注目されるようになるのは、1986年にニューヨーク近代美術館で回顧展が開催されてからになる。
彼の作風は副題にもあるように「19世紀末ピクトリアリズム」ということになるだろう。だが、ロベール・ドマシー、コンスタン・ピュヨーなどの、同時代の純粋なピクトリアリズム=絵画主義の写真家とはやや異なる位相にあるように思える。たしかに絵画的でロマンティックな自然の描写が基調ではあるが、考古学に深い関心を寄せていたこともあって、8×10インチの大判カメラのピントは細部まできちんと合わされており、むしろ自然科学者のような緻密な観察力を感じさせる。さらに1900年のパリ万国博覧会の工事、故郷のサン=テティエンヌ、フォレ地方の農村地帯などの写真を見ると、彼は本質的にはドキュメンタリストの眼差しを備えた写真家だったようにも思えてくる。他にも史上初のカラー写真、オートクロームの実験などもしており、19世紀末から20世紀初頭にかけての写真史のさまざまな潮流が、この一地方作家の仕事の中に流れ込んでいる様が興味深かった。

2010/06/08(火)(飯沢耕太郎)

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サイコアナリシス:現代オーストリアの眼差し

会期:2010/05/29~2010/08/01

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

なんだ写真と映像かよ。しかも深刻そうなのですぐ出た。

2010/06/08(火)(村田真)

フセイン・チャラヤン──ファッションにはじまり、そしてファッションへ戻る旅

会期:2010/04/03~2010/06/20

東京都現代美術館[東京都]

なんだファッションかよ。でもイスラム圏のトルコ出身というので見に行く。イスラムのファッションて基本的に身体を隠すだけだからね。ところが作者は、トルコ系だけどキプロス出身で、どこにもイスラムとは書いてない。誤った情報をウノミにして、勝手に妄想を膨らませていたのだ。ともあれ、最初にボロボロのドレス(土中に埋めて掘り起こしたもの)が展示されていて「お、いいじゃん」と期待したのだが、そのデビュー作(セント・マーティンの卒業制作でもある)を超える作品はなかったように思う。スピード、移民、遺伝子などの現代的なテーマを掲げ、レーザーやLEDといったテクノロジーを導入してるんだけど、そうしたテーマや手法そのものがモードとして消費されているようで、やっぱりファッションなんだなあと。

2010/06/10(木)(村田真)

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