artscapeレビュー

2010年07月15日号のレビュー/プレビュー

暗がりのあかり──チェコ写真の現在展

会期:2010/06/19~2010/08/08

資生堂ギャラリー[東京都]

80年代以降のチェコで注目される10人の写真展。冷戦下の東欧から社会主義体制が崩壊する80~90年代は、時代を反映してモノクロームの暗い写真が多く、いかにもチェコ的(もちろん偏見)だが、21世紀に入ると西欧と変わらない明るく乾いた作品が増えていく。そうなると、先端を行く隣国ドイツの現代写真にいかに追いつき、いかに差異化を図るかが問題になってくる。たとえば、さまざまなシチュエーションでセルフポートレートを撮るディタ・ペペなどは、ありがちな写真として見過ごされてしまうが、双子を撮ったテレザ・ヴルチュコヴァは、ダイアン・アーバス的モチーフにロレッタ・ラックス的技巧を加えることで突出を試みる、といったように。

2010/06/22(火)(村田真)

徳田恭子 展

会期:2010/06/21~2010/06/26

ギャラリーなつか[東京都]

岡山の染色家の個展。でも染色家より「まちづくりおばちゃん」として有名で、ぼくもそっち方面の顔しか知らず、作品を見るのは初めて。ろうけつ染めという手法で、花を思わせる有機的抽象形態に染色しているのだが、赤や青など発色がじつにきれい。その布を丸めて並べた作品もあるけど、多くは額に入れて絵のように展示している。これじゃあ絵の後追いしているようで潔くない。タオルみたいにバーに引っかけておくとか、バナーのように垂らすとか、ろうけつ染めならではの見せ方を工夫してもいいと思う。

2010/06/22(火)(村田真)

落直子 展「編み込まれた風景」

会期:2010/06/14~2010/06/26

2KW gallery[大阪府]

山などの風景や植物をイメージしたものを線で描いているのだが、絡まる糸のように繊細な線が増殖し拡散するそのありさまは、顕微鏡で見た単細胞生物か繁茂する植物のよう。近づいてよく見ると、その模様のような線の中に、靴やバッグ、仏像などもまさに編み込むように描かれているのが愉快だ。おもにペンを用いていた前回の個展では、余白の効果にも浮遊するようなつかみどころのない印象があり、全体に儚い雰囲気があったのだが、今回はアクリル絵の具を用いたそうで繊細な部分よりもモチーフの存在感、発色や筆のタッチのほうに視線が向いてしまう。今回は具体的なイメージに結びつく要素が多いのかなあ。見る側の想像を掻き立てる密やかな性質もあるだけに、少しもったいない気もした。

2010/06/24(木)(酒井千穂)

しまだそう展 せこはん景色

会期:2010/06/14~2010/06/26

2KW58[大阪府]

一見、意味も脈絡もめちゃくちゃな組み合わせのモチーフがコラージュされたように描かれた絵画なのだが、よく見ると横に並んだ作品の図形が相似になっていたり、色のイメージが連続していたり、空間的なまとまりを思わせる構成だったりと、よく考えられているのが解る。全体に横山裕一のカラーマンガみたいな雰囲気がありイメージが重なるのだけれど、色彩や構図のセンスが凄いので今後の活動も気になる。

2010/06/24(木)(酒井千穂)

加藤大季/秦雅則「性の話」

会期:2010/06/22~2010/06/27

企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]

いま、とにかく面白い展覧会を続けて開催しているのは、新宿・四谷の企画ギャラリー・明るい部屋だと思う。その推進力になっているのは、メンバーのひとりである秦雅則の「企画力」なのではないだろうか。加藤大季との二人展「性の話」を見ながらそう思った。自分の個展に加えて、他の写真家たちとのコラボレーション点を積極的に組むことで、ギャラリーの活動を活気づけることに成功している。
今回の加藤との二人展は「ちょっぴり卑猥な勃起時等身大(虚像?)写真展」ということで、性風俗店でバイトをしているという加藤の「肉食系」のキャラと、やや控えめにそれを受けて立つ秦のスタイルがうまく噛み合って、なかなか見応えのある展示になっていた。中心になっているのは鞭やバイブレーターなど、性の用具のクローズアップ写真と、大量に壁に貼られた性行為のスナップ写真群(加藤撮影)なのだが、その上部に何とものほほんとした秦撮影のポラロイド写真とラフな造りのブックが置かれることで、ともすれば生々しい方向に傾きがちな「性の話」を、あまりエスカレートさせることなくうまくやわらげている。秦雅則の語り口のうまさによって、加藤の「 み」が強いストレートな写真の魅力が、いきいきと発揮されているようにも感じた。予定では活動期間はあと半年あまりだが、これからも「企画力」を活かしてのびのびとした展示を見せていってほしいものだ。

2010/06/25(金)(飯沢耕太郎)

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