artscapeレビュー

2010年07月15日号のレビュー/プレビュー

吉増剛造「盲いた黄金の庭」

BLD Gallery[東京都]

会期:第1期/6月18日~7月11日、第2期/7月14日~8月8日
最後に銀座2丁目のBLD GALLERYで開催される吉増剛造展のオープニングへ。岩波書店から出版された同名の写真集(20年間の作品からセレクト)の刊行記念展である。吉増剛造は詩作のほかにも、評論、エッセイ、パフォーマンス、映像作品、銅板に言葉を刻むオブジェ作成、そして写真など、多彩な分野で表現者として活動している。だが何をやっても本来的に「詩人」の仕事に見えてくるのがすごい。その存在のあり方が、そのまま「詩人」であるとしかいいようがないのだ。
「写真家」としてのキャリアはかなり長く、1990年代初頭から本格的に写真作品を発表しはじめた。2000年代になると、今回の展示作品のようにパノラマカメラを使った多重露光作品が中心になってくる。多重露光という、何がどのように写り込むのかわからない偶然性を呼び込む手法は、吉増のシャーマン的な体質にぴったりしているのだろう。それに細く芯を尖らせた鉛筆で書き込まれた、繊細な筆致のテキストが付け加えられることで、魔術的な雰囲気がより強まっている。写真と詩をシンクロさせる試みは、これまでもないわけではないが、吉増の積極的な活動に刺激されて、若い世代にその領域を拡張していく試みがあらわれてくるといいと思う。

2010/06/18(金)(飯沢耕太郎)

村越としや/山方伸「ながめる まなざす Division-2」

会期:2010/06/04~2010/06/22

アップフィールドギャラリー[東京都]

雅博の企画で「風景と写真を巡る今日的状況」を問い直すという連続展。第1期は相馬泰、西山功一、横澤進一、吉村朗、第2期は村越としや、山方伸、第3期は荒木一真、南條敏之、箱山直子、 雅博が参加している。そのうち第2期の村越と山方の展示を見ることができた。
「地方」の農村地帯(山方は奈良県南部、村越は福島県が中心)を撮影しているということ以外は、二人の風景への取組みにはあまり共通項はない。山方は山村の建物や道や畑などがモザイク状に寄せ集められた眺めに執着し、村越は均質な湿り気のある光と空気の層で風景の全体を塗り込めていく。分析的で客観的な観察を基本とする山方に対して、村越の方は風景に自らの思いを解き放ち、そこに溶け込んでいこうとしているようだ。どちらがいい、悪いというのではなく、このような対照的なアプローチが隣り合って並んでいるところに、風景写真の「今日的状況」を見ることもできそうだ。
サードディストリクトギャラリーのストリート・スナップの連続展もそうなのだが、このところ写真という表現手段そのものの成り立ちを問い直す試みが目立ってきている。ただ、この「ながめる まなざす」展でも、どうも内向きにそのジャンルにおける完成度を競い合うというようなところがないわけではない。日本の写真家たちがこれまで積み上げてきた表現の質を保ちつつ、もっと外部に向けて開いていく工夫も必要ではないだろうか。

2010/06/20(日)(飯沢耕太郎)

高祖岩三郎『死にゆく都市、回帰する巷』

発行所:以文社

発行日:2010年6月20日

ニューヨーク在住の批評家・翻訳家である高祖岩三郎による、『ニューヨーク列伝』『流体都市を構築せよ!』に続くニューヨーク論、都市論の三冊目。著者は、ニューヨーク発の42の都市に関するエッセイを通して、2006年から2009年におけるニューヨークの現在を、政治、都市社会学、都市地理学、アートなどの文脈に接続させつつ語る。高祖によれば、「都市化」は「楼閣」と「巷」という二つの要素を持っており、「楼閣」は大建築や交通機関などの基盤施設で、国家や資本によって形成されるもの、「巷」は集合する人々の関係性が活性化したような状況、民衆の集合身体を指す。古典的な都市において一体化していた両者が、現代の都市においては非対称的に分離している。そして「巷」が、周縁に追いやられている。そのような「死にゆく都市」から「回帰する巷」へと、著者は可能性を模索する。42のエッセイは、それぞれに切り口が違っており、幅広く近年のニューヨークを知ることができるのが面白い。

2010/06/20(日)(松田達)

渡辺信明 展「古墳マド」

会期:2010/06/15~2010/06/27

ギャラリーすずき[京都府]

自宅は全長200メートルの巨大な前方後円墳のすぐ近くなのだそうで、その存在が今展での発表作品にもつながっているようだ。時間の積み重ね、生命の猛々しさやたくましさを想起させる圧倒的な色彩のインパクトとさまざまな表情を一緒くたに見せる筆力に感動。絵画って素晴らしいと改めて感じる展覧会だった。

2010/06/20(日)(酒井千穂)

「プラド美術館と模写作家たち──野田みち子氏」絵画展

会期:2010/06/15~2010/06/23

スペイン大使館展示室[東京都]

初めてスペイン大使館のなかに入った。最近改装されたのだろうか、地下は広々としたギャラリーになっている。展示されているのは、プラド美術館認定の模写画家、野田みち子によるエル・グレコを中心とする模写。はっきりいって、プラド美術館が認定したわりにデッサンがヘタ。エル・グレコの絵はもともとプロポーションが歪んでるのであまり違和感がないが、1点あったティツィアーノは「どこがティツィアーノ?」って感じ。しかしそんな技術的問題などものともせず、ひたすら模写に打ち込む情熱とエル・グレコへの愛情はひしひしと感じられた。

2010/06/22(火)(村田真)

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