2017年12月15日号
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artscapeレビュー

佐伯慎亮『リバーサイド』

2017年04月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2016/12/08

佐伯慎亮(しんりょう)は1979年、広島県生まれ。2001年に第23回キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞した。最初の写真集『挨拶』(赤々舎)を刊行したのは2009年だから、本作はほぼ7年ぶりの新作写真集ということになる。
切れ味の鋭い日常スナップという点においては前作と変わりがないのだが、そのあいだに結婚して3人の子供ができ、奈良に移り住み、近親者の死などの経験を重ねたことで、写真に深さと凄みが増してきた。もともと、彼の写真は「呼び込む」力が強いのだが、この写真集を見ると、まさにありえないような場面が写り込んでいる写真が異様に多い。例えばラストの写真、子供が崖の上の岩場のような場所に立っていて、その横に奇妙な顔のような形の白い石がある。石の頭の部分に手の影が映っているのだが、その手が誰のものなのか、なぜそこに写っているのか、どうも釈然としないのだ。そのような、奇跡としか思えない瞬間が写真集のあちこちに散在している。このような写真は、単純に神経を研ぎ澄まし技術を磨いたところで、そう簡単に撮ることができるものではない。佐伯は、たしか若い頃に真言宗の僧侶の修行をしていたはずだが、その時に身につけた感知力、認識力が、写真家の営みとして開花しつつある。
とはいえ、写真集を全体として見れば、オカルト的な歪みや捻れなど微塵も感じさせない、気持ちのいい、穏やかな雰囲気の写真が並んでいる。大竹昭子が写真集の帯に寄せた文章で「恩寵」という言葉を使っているが、たしかにそんな宗教的な気分もないわけではない。佐伯は確実に、現実世界を独特の視点から切りとる業を身につけつつある。

2017/03/02(木)(飯沢耕太郎)

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