artscapeレビュー

熊谷聖司「THE TITLE PAGE」

2011年09月15日号

会期:2011/08/22~2011/09/04

ギャラリー蒼穹舎[東京都]

熊谷聖司が2009年に刊行した写真集『THE TITLE PAGE』(MATCH and Company)のページをめくった時、これは「俳句的」な写真集だと思った。写っているのはごく身近な日常的な場面で、それをあまり肩に力を入れずすっと切り取っている。そこに軽やかさとともに、「世界をこのように見ている」という認識のひらめきが感じるのがいかにも「俳句的」だ。それと、写真一枚一枚に短い言葉=タイトルがついていて(それが『THE TITLE PAGE』という写真集の題名の所以だろう)、その選び方にやはり知性と切れ味を感じる。最初の写真は窓辺の花瓶の花を撮影したもので、タイトルは「Flower is…」。これはロバート・フランクの写真集から取ったものだ。魚の切り身の写真に「Picasso」。ピカソの絵の骨のモチーフの変奏だろうか。ショーウィンドーの写真に「Twins」とあるのは、実物とガラス窓に写る影が二重映しになっているからだろう。このような、日常の断片を深みのある象徴的な場面に変質させる「俳句的」なレトリックこそ、日本の写真家たちの得意技だ。このシリーズは、それを高度に洗練させた営みと言えるだろう。
今回の展示には、その『THE TITLE PAGE』収録の写真に加えて、同時期(2006~2009年)に撮影された別なカットも選ばれている。それを見ても、熊谷が現実世界からイメージを切り出してくる手つきが、既に「芸」の域に達していることがわかる。8×10インチくらいに小さく焼かれたプリントも、このシリーズにふさわしい凝縮して詰まった感じを醸し出している。ただ残念なことに、あの魅力的なタイトルがはずされていた。展示でも写真と言葉との響き合いを見たいと思ったので、会場にいた熊谷にそれを伝えたら、「さっそくプリントアウトして貼っておきます」とのことだった。

2011/08/22(月)(飯沢耕太郎)

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