artscapeレビュー

宇井眞紀子「アイヌ、風の肖像」

2011年09月15日号

会期:2011/08/17~2011/08/30

銀座ニコンサロン[東京都]

小栗昌子の「フサバンバの山」もそうなのだが、このところ腰を据えて特定の地域、人物などを撮影するドキュメンタリー写真のあり方が気になってきている。宇井眞紀子が新泉社から刊行した同名の写真集の刊行にあわせて開催した「アイヌ、風の肖像」展でも、写真撮影の行為の“原点”を志向するような営みに、強く心惹かれるものを感じた。小栗も宇井も女性の写真家なのは偶然ではない気がする。女性の方が繰り返し、うねりながら続いていく被写体の生のリズムに、無理なく同調することができるのではないだろうか。
宇井眞紀子は1992年に、偶然の機会から、北海道沙流郡二風谷でアイヌ民族のコミューンを組織するアシリレラ(「新しい風」という意味、日本名は山道康子)に出会う。彼女の凛としたたたずまいと、大家族を束ねる包容力に魅せられた宇井は、以後20年近く子連れで二風谷に通い詰め、アシリレラ・ファミリーを記録していった。彼らの暮らしの細部のほか、アイヌの聖地を破壊する二風谷ダムの反対運動、伝統儀式、世界各地の先住民族との交流など、アシリレラさんを中心に撮影した写真をまとめたのが今回の展示である。
モノクロームとカラーを併用する撮影のスタイルには、自然体でまったく気負いがない。もちろん個々の写真には、それぞれの場面のバックグラウンドがきちんと写り込んでいるのだが、それらを読み解き、解説していこうとするよりは、その場を共有してシャッターを切っている写真家の心の躍動が、ストレートに伝わってくるのだ。20年の年月とともに、写真家も被写体となったファミリーの状況も、少しずつ変わっていく。それを無理なく受けとめて写真に編み込んでいく、息の長いドキュメンタリーのスタイルが、既にできかかっているように感じた。

2011/08/17(水)(飯沢耕太郎)

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