2020年08月01日号
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artscapeレビュー

若木くるみ「車輪の下らへん」

2012年02月01日号

会期:2011/12/10~2012/01/21

Gallery Jin Projects[東京都]

第12回岡本太郎現代芸術賞で岡本太郎賞を受賞した若木くるみの個展。会場の中央に設けた巨大な車輪のなかで、モルモットのように延々と走り続けるパフォーマンスを見せた。手足と顔面を黒い布で覆って匿名性を担保していたから定かではないが、おそらくは当人なのだろう。走る速度はあくまでもジョギング程度であるため、車輪の回転運動もゆっくりとしているが、その駆動音は木製の車輪がきしむ音が室外へ漏れ出すほど大きく、そして絶え間ない。どうやら会期中つねに走っていたようだ。むろん、無意味の徹底という現代アートの典型的な作法を見出すことはできる。けれども、展覧会のタイトルに示されているように、これがヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を念頭に置いていたとすれば、車輪の下に踏み潰されるより、いっそ車輪の内部に入り込み、それを動かしてしまうという逆転の発想を見抜くこともできなくはない。強者の論理のなかで、その戦略を逆用しながら生き延びる弱者の戦術。かつてミシェル・ド・セルトーが唱えたような機略が現代アートの文法に内蔵されていることを、若木くるみは身をもって解き明かしたのではないだろうか。そのような「反転」を内側に含んだ自転運動は、社会に直接的に貢献する公転運動にはなりえないのかもしれないが、その自転が鮮やかで美しいということにこそ、社会的な意義がある。

2012/01/11(水)(福住廉)

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