2020年08月01日号
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artscapeレビュー

DOMANI・明日展

2012年02月01日号

会期:2012/01/14~2012/02/12

国立新美術館[東京都]

ここ数年で恒例となった文化庁による芸術家在外研修制度を利用したアーティストたちの成果発表展。比較的近年に外国に渡ったアーティストたち8名による作品を中心に、過去に制度を活用した美術家たちによる作品50点あまりもあわせて展示された。あらゆる都市を廃墟にしてしまう元田久治が圧巻だったが、今回とくに注目したのが、児嶋サコ。近年熱心に取り組んでいるネズミをモチーフとした絵画や立体、そして映像を発表した。児嶋が描き出すネズミは、たとえばChim↑Pomにとってのスーパーラットとは対照的に、捕獲するものではない。むしろ、ネズミは児嶋自身であり、それを見るそれぞれの鑑賞者自身である。デジタル写真を編集したスライドショーの映像は、自然のなかを逃走するネズミの視線が投影されているから、鑑賞者は地を這って走り抜けるネズミの高揚感とスリルを味わえるし、女性の下半身にネズミが融合した立体作品はネズミに「なる」欲望の忠実な反映にほかならない。Chim↑Pomにとってのスーパーラットが同類とはいえ捕捉する他者だとすれば、児嶋にとってのネズミは自己の欲望を一方的に投影するイメージであると言ってもいい。その欲望とは、動物をモチーフとしたキャラクターに自己を埋没させることだけではなく、ちょうどネズミが檻から逃散するように、人間という存在そのものから抜け出すことを表わしているように思われた。人間を覆い隠すための動物化ではなく、脱人間のための動物化。もちろんアニメやマンガといった20世紀のサブカルチャーを顧みれば、そうした傾向は随所に見出すことができる。ただし、それらはあくまでも人間という基盤のうえで動物化の物語を繰り広げているのであって、どれほど動物へ飛躍したとしても、最終的には人間に帰着していた。ところが、児嶋のネズミは人間に立ち返るのではなく、むしろ野原をかき分け、岩壁をよじ登り、自然の向こうに突き抜けてしまう。映像のラストで大きく映し出された雲のかたちがネズミに見えたが、それは人間には決して回帰しない、ある種の決別宣言のように思われた。

2012/01/18(水)(福住廉)

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