artscapeレビュー
井上廣子 展〈Mori:森〉
2012年09月01日号
会期:2012/08/07~2012/08/19
ギャラリーヒルゲート[京都府]
社会性の強いテーマや人間存在の本質を問うような作品を、写真やインスタレーションなどで表現してきた井上廣子。彼女が新作のモチーフに選んだのは、日本の東北とドイツの森だった。これらの場所は、いずれも天災や戦争にまつわるエピソードを持っているが、作品にそれを直接匂わせるような手掛かりは仕込まれていない。井上は昨年、東日本大震災のニュースに接した際、これまで自分は自然をテーマにしたことがなかったと気付き、本作の構想に入ったそうだ。その意味で、今回の作品は一種のエスキースと見なすこともできる。今後コンセプトや技法などが煮詰められ、数年後にはかっちりまとまったシリーズ作品が生み出されるのではなかろうか。その端緒を見られたという意味で、本展は貴重な機会だった。
2012/08/12(日)(小吹隆文)