2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳

2012年09月01日号

会期:2012/08/04

銀座シネパトス[東京都]

今年で90歳の現役写真家、福島菊次郎のドキュメンタリー映画。いまも東日本大震災の被災地や脱原発デモを撮影している福島に密着しながら、複数回に及ぶインタビューによって福島のこれまでの仕事を振り返る構成だ。広島の被爆者の家庭に何度も何度も立ち入り、原爆症に苦しむ男を克明にとらえた写真にはじまり、三里塚、東大安田講堂、水俣、ウーマン・リブ、自衛隊基地や軍需産業の工場内、上関原発の建設をめぐって揺れている祝島など、福島がカメラとともに歩いてきた軌跡は、日本の戦後史の現場そのものだった。それらを一挙に目の当たりにできる意義は大きい。教科書的な歴史教育では到底望めない、生々しい歴史を知ることかできるからだ。だが、映画のなかの福島を見ていて心に深く焼きつけられるのは、彼独特の佇まいである。小さく薄い身体で柴犬と散歩をし、旧いワープロで原稿を書く福島の姿はたしかに90歳の老人だが、カメラを構えると身体の動きがとたんに機敏になり、集中した表情に一変する。警察官に語りかける口調も穏やかだが、その言葉の内側は断固とした態度で塗り固められているようだ。それは、福島の娘が率直に語っているように、端的に「かっこいい」のである。写真家ならではの佇まいが失われつつあるいま、もっとも見るべき映画である。

2012/08/15(水)(福住廉)

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