2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ざ・てわざII─未踏への具象─

2012年09月01日号

会期:2012/08/01~2012/08/07

日本橋三越本展 6階美術特選画廊[東京都]

てわざ=メチエをテーマにした展覧会。具象絵画を中心に28人の美術家による作品が展示された。いわゆる「超絶技巧」系の作品が並ぶなか、ひときわ異彩を放っていたのは、前原冬樹。錆びついた鉄板と、その上に残された折鶴を、いずれも木彫で表現した。辛うじて木目を確認できる折鶴はともかく、鉄板はどこからどう見ても鉄板以外の何物でもなく、これが精緻な塗りを施された一木彫りとは、到底信じ難い。眼を疑うような前原の作品は、一方で「侘び」と「寂び」という旧来の美意識によって評価できる。前者は、美的な対象にはなりにくい、粗末で凡庸なモチーフを率先して選んでいるから、そして後者は表面に広がる錆が如実に物語っているように、取り返すことのできない時間の経過を訴えているからだ。だがその一方で、前原の作品の魅力はむしろ(こう言ってよければ)徹底したバカバカしさにあるのではないだろうか。誰も注目しないようなモチーフを、たんに忠実に再現するのではなく、基本的に一木彫りによって、果てしない時間をかけて彫り出すこと。それを、いかなる虚栄心とも関係なく、ひたすら純粋に追究しているからこそ、私たちの眼を奪ってやまないのだ。前原のてわざこそ、未踏の領域を切り開いているのである。

2012/08/05(日)(福住廉)

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