artscapeレビュー

人見将「即興?写真」

2013年02月15日号

会期:2013/01/11~2013/01/31

Gallery Café 3[東京都]

人見将はこのところフォトグラムを中心に発表している。印画紙に直接物体を置いて光に曝し、その影を定着するフォトグラムは、19世紀以来の伝統のある技法だ。1920~30年代にはマン・レイやモホイ=ナジが積極的に使用して、モダニズム的な前衛写真を代表するような作品を制作した。だが、人見はフォトグラムに基本的に依拠しながらも、そこから微妙に逸脱していく「即興?写真」を展開していこうとする。
たとえば、フォトグラムの元になる物体とその影とは、普通は1対1対応の大きさやフォルムになる。ところが、今回東京・高円寺のGallery Café 3
開催の個展で発表された作品では、洗濯バサミや錠や指などは、まずブローニーサイズのフィルムにフォトグラムされ、それをより大きめの印画紙にプリントしている。つまり、人見の作品の中の「影」は、サイズが変わることで元の物体との対応関係がゆるみ、むしろ「洗濯バサミのようなもの」「錠のようなもの」「指のようなもの」として眼に入ってくる。そこにあらわれてくるのは、存在の揺らぎ、はかなさ、不思議さといった、普通のフォトグラムとはやや違った味わいを持つ感情である。独特の視覚的世界が形成されつつあると言ってよい。
なお、東京・大久保の名曲喫茶・カオリ座でも、2012年10月から2013年10月まで(2013年1月、3月を除く)毎月1日~10日に「即興?写真」展が開催されている。こちらでも、写真と鉛筆デッサンとを合体したフォトグラムなど、多彩な実験が展開中だ。

2013/01/15(火)(飯沢耕太郎)

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