artscapeレビュー

田尾沙織「ビルに泳ぐ」

2013年02月15日号

会期:2013/01/14~2013/01/27

Raum1F[東京都]

1980年生まれの田尾沙織は、2001年に第18回「写真ひとつぼ展」でグランプリを受賞した。たしかその時点で同展の最年少受賞者だったはずだ。それから10年以上が過ぎて、このときの受賞作『ビルに泳ぐ』がPLANCTONから写真集として刊行されることになった。それにあわせて同社のIFのスペースで開催されたのが本展である。
会場を巡ってやや拍子抜けしたのは、そこに展示されていた29点が、受賞時の写真そのものだったことだ。田尾はそれからプロ写真家になり、広告やエディトリアルを中心に活動の幅を広げ、ニューヨークにも長期滞在した。当然、その間の経験の蓄積が、何らかの形で展示に反映されているのではないかと期待していたのだが、そうではなかったのだ。
たしかに「ビルに泳ぐ」は、いま見ても新たな才能の出現を予感させる佳作だ。6×6判の画面の浮遊感とバランスのよさ、被写体に対するデタッチメントを基調とする距離感、当時若い写真家たちの心を捉えていたやや希薄なパステル調の色味──すべてが水準以上であり、的確な表現力が発揮されている。だが、それはあくまでも2001年当時の水準であり、いまそれを見せられても仕方がないと思う。むしろ、このシリーズをイントロダクションとするようなその後の作品の展開をしっかり見てみたいのだが、彼女にその用意はあるのだろうか。

2013/01/24(木)(飯沢耕太郎)

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