artscapeレビュー

蔵真墨「イ・ケ・メ・ン」

2013年02月15日号

会期:2013/01/18~2013/02/23

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

蔵真墨の新作「イ・ケ・メ・ン」の展示を見ながら思い出したのは、アメリカの写真家ゲイリー・ウィノグランドのスナップショットの傑作『女は美しい』(Garry Winogrand, Women Are Beautiful, 1975)である。ヘテロセクシュアルな男性の眼から見た女性の魅力を、生命力あふれる写真群でぬけぬけと語り尽くした『女は美しい』とちょうど逆の方向から、『男は美しい』と言い切ってみせたのが今回の蔵の連作のように思えたからだ。だが、1960年代後半~70年代初頭の「ウィメンズ・リブ」や「カウンター・カルチャー」の時代を背景とした『女は美しい』とくらべると、時代状況と地域の違い(蔵の写真の主な舞台となっているのは東京と香港)もまた、明瞭に浮かび上がってくる。「イ・ケ・メ・ン」には、手放しの男性礼讃とはいい難い、やや鬱屈した翳りのような感情がうっすらと漂っているのだ。
今回の連作に使用されたのは、6×6判レンジファインダーカメラのニューマミヤ6である。同じフォーマットの一眼レフカメラの、画面の隅々までコントロールされたシャープな画像と比較すると、このカメラで撮影された写真にはどこか曖昧な領域が生じてくる。蔵自身「周囲に興味深い何かが写りこんでくる偶然」を期待してシャッターを切ったと語っているが、たしかに画面の周辺の部分のテンションは明らかに中心部よりも落ちているのだ。そのあたりにも、ウィノグランドの獲物を狙って仕留める狙撃手のような視点の取り方とは、違った感触があらわれてきているのではないだろうか。

2013/01/23(水)(飯沢耕太郎)

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