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胎内巡りと画賊たち──新春 真っ暗闇の大物産展

2013年02月15日号

会期:2013/01/10~2013/01/20

京都伝統工芸館内 京都美術工芸大学付属京都工芸美術館[京都府]

「新しい物産」というテーマで、観光地の土産ものの置き物やこけしなど、“民芸品”をモチーフに作家たちが制作した“オリジナル民芸品”を展示したグループ展。中心メンバーは東京の画家集団「画賊」で、ゲストとして天野萌、木内貴志、木村了子など関西在住の作家も出品していた。会場ははじめに、豆電球のついた小さな提灯を持って暗がりのなかで作品を鑑賞する「胎内巡り」の空間が設えられており、それを抜けると明るい「新しい物産」展の展示室へと続く。建築ユニットmono.による「胎内巡り」は、ダンボール箱で構成した高い壁が道をつくる空間になっていて、作家たちの作品はその壁面や床に展示されていた。「新しい物産」展のほうは国内外の民芸品と作家たちによる“オリジナル民芸品”がごちゃまぜに入り混じる空間。ブラックユーモアの効いた作品もちらほらあるのだが、そのどれにもキャプションも作家名も記されていないため、どれが誰の作品なのかは不明。しかし、めいめいのマニアックなキャラクターやアクの強さがないまぜに置かれた会場は想像も掻き立てられてなかなか面白かった。
個人的に興奮したのは長崎の郷土玩具《鯨の潮吹き「善蔵型」》。長崎くんちの曳物(ひきもの)をモデルにした小さなこの伝統玩具、じつは今展の参加作家である前田ビバリーこと前田真央によって復元されるまで、30年以上も廃絶していたのだという。前田は1988年生まれのまだ若い女性だが、この復元に至るまで一人でこつこつと現地の取材や制作の研究を重ねてきたという。廃れゆく各地の郷土玩具はたくさんあるし、それを惜しむ人も多い。そんななか、すでに廃絶したそのひとつを自らの手で見事に蘇生させた前田の情熱と行動力に感服するばかりだ。さらに頼もしいのは彼女がオリジナル(張り子)作品を手がける作家であることだ。伝統に新鮮な風を吹き込む存在としての今後の彼女の活躍にも期待が膨らむ。嬉しい出会いだった。

会場風景


復元された長崎張り子《鯨の潮吹き》

2013/01/18(金)(酒井千穂)

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