artscapeレビュー
アンディ・ウォーホル展 永遠の15分
2014年03月15日号
会期:2014/02/01~2014/05/06
森美術館[東京都]
400点以上という「国内史上最大」の出品点数、ニューヨーク東47丁目の伝説のアートスタジオ「ファクトリー」の再現など、多面的かつ包括的なアンディ・ウォーホルの大回顧展である。だが、それを「写真展」として読み解くのも面白いのではないだろうか。
言うまでもなく、ウォーホルの制作活動は写真という表現メディアに多くを負ってきた。彼のシルクスクリーン作品のほとんどが、写真製版による既製のイメージの複写・反復をもとにしたものである。それだけではなく、ウォーホルは一種のカメラ狂であり、彼が出会ったセレブや身の回りの人物や出来事を写真におさめて続けてきた。それらの大部分は、彼自身の有名人崇拝、スノッブ趣味を満足させるために撮影されたスナップ写真の類だが、大判ポラロイドを用いたポートレートや、一枚の写真を複数焼き増しして縫い合わせた「縫合写真」(1970~80年代)など、写真作品としてのクオリティを感じさせるものも多数ある。
もうひとつ重要なのは、彼がセルフ・イメージを拡張・増幅・変容させるために、写真を徹底して利用していることだ。1960年代に「ポップ・アートの帝王」としての地位を確立してから以降、ウォーホルは最新流行のファッションを身につけ、鬘やメーキャップなどにも頼って、それらしいセルフ・イメージを流布し続けようとした。時には痛々しくも感じられるほどの、そのこだわりが、セルフ・ポートレート作品やスティーブン・ショアやビリー・ネームなど身近にいた写真家たちによるスナップ写真に刻みつけられている。
ウォーホルは1987年に亡くなっているので、90年代以降の写真のデジタル化に対応することはできなかった。ゆえに、もし彼がもう少し長く生きたならば、デジタルカメラとパソコンを使ってどんな写真作品を制作したのかというのは、とても興味深い設問だ。だが逆に、ウォーホルの奇妙に生々しい写真作品を見ていると、彼こそが、銀塩写真の時代の最後の輝きを体現した「写真家」だったのではないかとも思えてくる。
2014/02/04(火)(飯沢耕太郎)