artscapeレビュー

藤岡亜弥「Life Studies」

2014年03月15日号

会期:2014/02/12~2014/02/25

銀座ニコンサロン[東京都]

藤岡亜弥は2008年に文化庁の奨学金を得て、1年間の予定でニューヨークに住み始めた。ところが、彼女は滞在予定が過ぎてもそのままニューヨークに留まり、結局4年間を過ごすことになる。藤岡を強く引きつける魅力が、この街にあったということだが、今回の展示を見てなんとなくその正体がつかめたような気がした。
ニューヨークにいた4年の間に、彼女の前には一癖も二癖もある人物たちが次々に登場してきた。虚言癖のある男、マリファナ中毒者、自称「女優」、自己中心的なルームメイト──彼らに振り回され、辟易としながらも、藤岡は同時に強く引き寄せられていく。ニューヨークの住人たちは「みんなが病的で、まじめに滑稽」なのだ。その渦中に巻き込まれ、翻弄されながらも、藤岡はスナップショットの技術を鍛え上げ、カラー暗室に通ってプリントの作業を続けていった。そうやって形をとっていったのが、今回銀座ニコンサロンで展示された「Life Studies」のシリーズである。
タイトルは、藤岡が公園のベンチでページが開いているのを偶然に見つけたという、スーザン・ヴリーランドの小説のタイトルに由来するが、ニューヨーク滞在がまさに彼女にとって「生の研究」であったことが、とてもうまく表明されていると思う。自らの家族を撮影した『私は眠らない』(赤々舎、2009)で高い評価を受けた藤岡の、新たな作品世界の展開をさし示すシリーズであるとともに、日本に帰国した彼女が次に何をやっていくのかという期待を持たせる充実した内容だった。できれば、ぜひ写真集としてもまとめてほしい。
なお、この展覧会は、3月27日~4月2日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2014/02/12(水)(飯沢耕太郎)

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