artscapeレビュー

建築家と共同作業

2014年03月15日号

世間を騒がせている作曲家のゴーストライター事件から思うこと。逆に建築家は映画監督と同じく集団制作が一般的であり、設計事務所はいわば建築家の集団でもある。以前、某エンタメ番組から丹下健三でクイズを作りたいと電話があり、しゃべっていて気づいたのは、すべての図面を丹下ひとりが描いていると誤解していたこと。公共施設を手がけるような建築家ではありえない。実際、建築の共同制作は、学生のときから始まっており、例えば、卒計の全図面と模型を本人だけでつくる人はほとんどいない。学生は多くのヘルプを使うし、模型が巧い下級生を求める。だから、卒計の講評会やせんだいデザインリーグなどで、目の前に重要な模型があっても、本人自らつくっているとは、審査委員を含め、誰も思わない。そもそも建築家が図面をひとりで描いたとしても、施工まで行うことはない。セルフビルドは例外中の例外である。図面の段階でも、年に住宅をひとつしかこなさない小さな事務所でないかぎり、所長の個人作業ではないことが一般的だ。が、素朴な天才神話を建築にあてはめると、丹下でもすべての図面を引いていると信じられてしまう。

2014/02/08(土)(五十嵐太郎)

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