artscapeレビュー

大久保潤「でかける!」

2014年09月15日号

会期:2014/07/01~2014/08/02

カフェ・カンパーニュ[東京都]

大久保潤は相変わらず元気に写真を撮り続けている。2012年に横浜・blanClassの「でかける!」展で、1000点以上の写真を展示したのだが、その後も撮影のペースはまったく落ちていないようだ。今回の東京八王子のカフェ・カンパーニュでの個展では、昨年12月頃から撮り続けてきた200点あまりが展示されていた。
大久保の写真の撮り方はまさに出会い頭で、彼のアンテナに引っかかったものに素早くカメラを向けてシャッターを切っている。とはいえ、好みの被写体はあるようで、何かが規則正しく並んでいる状態(今回ならTシャツ展の会場、ミニカーのポスターなど)には常に鋭敏に反応する。また、時期によって「マイブーム」があるようで、最近は「自分の撮った写真のプリントを撮影する」ことに凝っているようだ。それらの写真のほとんどはピンぼけなのだが、そのぼけ具合が妙に気持ちがよく、いい味わいを醸し出していた。
彼のような知的障害者が撮る写真を、とりたてて特別視する必要はないだろう。だが、やはり普通の撮り方ではないと思う。被写体への向き合い方が、文字通りストレートであり、余計な思惑がない分、被写体のエネルギーがまっすぐに写真の中に流れ込んできているように感じるのだ。以前の1000点の写真展示が印象に残っているので、200枚でもやや物足りなく感じてしまう。かなり大きな会場が必要になるのだが、彼のこれまでの写真を全部まとめて展示して、シャワーのようにそのパワーを浴びたいと思いはじめた。

2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)

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