artscapeレビュー
山本渉「春/啓蟄」
2014年09月15日号
会期:2014/07/25~2014/08/23
Yumiko Chiba Associates / viewing room shinjuku[東京都]
2013年に森の中で撮影したセルフポートレイトのシリーズ「線を引く」を写真集にまとめて注目された山本渉は、かなり多彩な作風の持ち主である。植物の放電現象を「キルリアン写真」で記録した「光の葉」、「プラタナスの観察」などのシリーズに加えて、男性の自慰用の器具の内部に石膏を流し込んで型取りしたオブジェを撮影した、何ともユーモラスな「欲望の形」のシリーズも同時並行して発表している。その山本の新作「春/啓蟄」も、いかにも彼らしい趣向を凝らした「コンセプチュアル・フォト」だった。
表題作は「水とカラーフィルムを皮膚の代わりにして太陽の光と温度変化を捉える試み」であり、具体的には4x5判のフィルムを水に浸して凍らせ、ピンホールカメラの小穴から差し込む光で解凍と撮影を同時におこなうという作品である。その結果として、フィルムには細かなさざ波のような紋様や光のフレアーなどが写り込むことになる。その偶然の効果で出現してくる画像のたたずまいが、いかにも「春の目覚め」を思わせる、みずみずしく力強い生命力の胎動を感じさせるのが面白い。実際にやってみなければ、どんな結果になるのかまったく予想がつかないはずだが、何かに導かれるように「こうやるべきだ」という確信に至ったことが想像できる。
次々に新しい箱を開けるように、さまざまな現象を写真というフィルターを通して形にしていく山本の試みは、これからしばらくはこのまま続けていっていいと思う。おそらくそのプロセスを経ることで、より強い説得力と一貫性を備えた世界観、写真観が育っていくのではないだろうか。
2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)