artscapeレビュー
荒木経惟「往生写集──愛ノ旅」
2014年09月15日号
会期:2014/08/09~2014/10/05
新潟市美術館[新潟県]
豊田市美術館の「往生写集──顔・空景・道」に続いて、新潟市美術館では「往生写集──愛ノ旅」と題する荒木経惟展が開催された。「センチメンタルな旅」(1971年)、「冬の旅」(1991年)、「愛のバルコニー」(1982~2011年)といった回顧展的な名作に加えて、新作を積極的に紹介していくという構成は、前回の展示を踏襲している。それに加えて、今回は2011年の第6回安吾賞受賞記念展で発表された「堕楽園」、新潟を舞台として撮影された「新潟エレジー」(1988年)、「冬恋」(1998年)など、新潟ゆかりの作品も展示されていた。
新作の中でも抜群に面白いのは、わざわざ特別に「愛切ノ部屋」をしつらえて展示した「愛切」のシリーズだ。長年撮りためたポラロイド写真を鋏で二つに切り、その片方同士を組み換えて貼り合わせている。過激なヌードが多いので、微妙な部分をカットして見えないようにしてしまうという実用的な目的と、2枚の写真の意表をついた組み合わせの妙とが結びついて、見応えのある作品に仕上がっていた。1357枚という点数はかなりの数だが、まったく見飽きるということがない。荒木の真骨頂といってよい、サービス精神あふれる展示だった。
ただ全体的に見ると、豊田市美術館の展示のぴんと張りつめた緊張感が、やや薄れているように感じるのは、会場のたたずまいの違いのせいだろうか。前川國男設計の美術館の建物の、ゆったりとした空気感の中だと、荒木の作品も静かに落ち着いて呼吸しているように感じる。それはそれで悪くないのだが。
2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)