artscapeレビュー

新井卓「Exposed in a Hundred Suns」

2014年09月15日号

会期:2014/07/25~2014/09/20

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

愛知県美術館の「これからの写真」展の出品者の一人である新井卓は、同時期に東京・田町のフォト・ギャラリー・インターナショナルでも個展を開催した。展示作品はほぼ共通しており「百の太陽に灼かれて」と題して撮影された第五福竜丸関連のシリーズをはじめ、広島、長崎、福島などを巡って撮影されたダゲレオタイプ作品が並んでいた。
新井が世界最古の写真技法であるダゲレオタイプの作品に取り組みはじめたのは、2008年頃からなので、それから6年あまりが過ぎた。その間に、作品制作の姿勢は格段に深化し、作品そのもののクオリティとスケール感も増してきている。特に第五福竜丸や広島の原爆ドームなどを被写体として、数十枚~数百枚に達するダゲレオタイプをグリッド状に連ねた「多焦点モニュメント」の作品群の強度は恐るべきものだ。ダゲレオタイプの本質的な「遅さ」、煩雑な制作のプロセスと露光時間の長さを逆手にとって、眼前の光景をモニュメント化して屹立させようとする新井の試みは、それにふさわしい手法を編み出すことによって、一つの到達点に向かいつつあるのではないだろうか。
もう一つ注目したのは、会場の外の壁面にさりげなく展示してあった「毎日のダゲレオタイプ・プロジェクト 2011-2013」のシリーズである。おそらく東日本大震災を契機に開始されたと思われるダゲレオタイプによる日録は、「百の太陽に灼かれて」とはまた違った問題意識を孕みつつあるように思える。これはどうしてもモニュメンタルな一回性に回収されてしまいがちなダゲレオタイプ作品のこわばりを、もう一度日常性に解き放とうとする試みなのではないだろうか。

2014/08/21(木)(飯沢耕太郎)

2014年09月15日号の
artscapeレビュー