artscapeレビュー
第9回ヒロシマ賞受賞記念──ドリス・サルセド展
2014年09月15日号
会期:2014/07/19~2014/10/13
広島市現代美術館[広島県]
昨日は宮島に1泊。豪雨により広島市内で土砂災害が発生したとのニュースを聞きながら、「ヒロシマ賞受賞記念展」をやってる現代美術館へ。人類の平和に貢献したアーティストに贈られるヒロシマ賞は、1989年から3年にいちど続けられ、受賞者は広島市現代美術館で個展を開いてきた。これまで三宅一生、ウディチコ、蔡國強、オノ・ヨーコらが受賞。今年受賞したのはドリス・サルセド。ぜんぜん知らなかったけど、コロンビア出身の女性アーティストで、政治的暴力をテーマに作品を制作しているらしい。話題になった作品に、テート・モダンのタービンホールの床に大きな亀裂を入れたインスタレーションがある。こういう巨大空間ではモニュメンタルな作品を屹立させたがるアーティストが多いが、彼女はアンチモニュメンタルなマイナスの彫刻を「掘った」わけだ。これを“女性的”といってしまえば「差別的」と批判されるだろうか。今回の出品は、写真や小品を除けば2点。1点は、無数のバラの花びらを縫い合わせて1枚の巨大なシートにした《ア・フロール・デ・ピエル》。まるで血を吸い込んだ絨毯のような深紅色だ。もう1点は、長さ2メートル近い細長い机を天地逆にして重ね、机と机のあいだに土を挟んだものを数十点並べた《プレガリア・ムーダ》。これも《ア・フロール・デ・ピエル》と同じく、暴力で命を落とした人たちに捧げられたインスタレーションだ。机の大きさがほぼ棺桶と同じだと気づくと、突き上がった机の脚も無数の墓標に見えてくる。と書くと絶望的な作品に思われるかもしれないが、よく見ると机の隙間から雑草が生えているのがわかり、わずかに希望を感じさせる。会場は照明を落としているので薄暗いし、作品数も少ないし、観客もほとんどいないし、けっして楽しいものではないが、だからこそ広島以外ではやれない意義深い展示だと思う。
2014/08/21(木)(村田真)