2019年11月15日号
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artscapeレビュー

小島一郎──北へ、北から

2014年11月01日号

会期:2014/08/03~2014/12/25

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

青森県出身の写真家、小島一郎(1924-1964)の回顧展。津軽平野などで撮影されたモノクロ写真を中心に、小島の活動の全貌に迫った好企画である。
小島が盛んに撮影していたのは、津軽や下北の風土。戦後の高度経済成長期にあって、牛や馬とともに畑を耕し、強烈な風雪に耐えながら道を行く、野良着姿の百姓たちの写真が多い。構成写真のような類もなくはないが、それにしても農機具を構成的にみなした作品だ。いずれにしても、過酷な自然を体感させる写真ではある。だが、それらはたんに言語上の理解を超えて、まさに肉体に訴えかける写真だと言える。風に運ばれて口に飛び込んできた微細な砂粒を思わず噛み締めてしまった時に感じるような、ざらついた舌触りを感じさせるのだ。
興味深いのは、そのように素晴らしい小島の写真が、津軽や下北の風土を被写体にしながら、同時に、その風土に大きく規定されていたという点である。名取洋之助にその才覚を見出された小島は、家族とともに東京に拠点を移す。しかし、東京滞在中の写真の大半は中庸と言うほかなく、小島の視線と東京という街が決して交わらなかった事実が浮き彫りになっている。東京には津軽平野を吹き荒ぶ「風」も、百姓たちが掘り起こす「土」も、見つけることはできなかったのだ。ビルとスモッグの向こうに輝く太陽をとらえた写真は、遠い青森に望郷の念を届けるかのような哀切に満ちている。
やがて小島は青森に帰る。だが、それは必ずしも限界や撤退を意味するわけではない。写真や美術をはじめとする表現文化やそれらに携わる私たち自身は、そもそも本来的にその土地の風土に根づいているのであり、それらから切り離された「美術」や普遍的な美という近代的な観念こそ、大いなるフィクションなのだ。それが証拠に、本展を訪れた日は台風18号が接近しており、激しい風雨が同館の建物全体を打ちつけていた。そうしたなかで小島一郎の写真を見ると、そこに写し出された過酷な風土が、より勢いよく、より強力に、より輪郭を際立たせて、こちらに伝わってくる。美術館という近代的な文化装置が社会から隔絶された中立的な美の神殿などではまったくないことを、小島の写真は教えているのである。

2014/10/05(日)(福住廉)

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