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7つの海と手しごと《第5の海》「オホーツク海とウイルタのイルガ」

2014年11月01日号

会期:2014/10/04~2014/11/03

世田谷文化生活情報センター:生活工房[東京都]

世界の海の暮らしをクラフトで紹介する「7つの海と手しごと」シリーズ。第5回となる本展では、サハリン島の少数民族・ウイルタの「イルガ」という文様が取り上げられている。ウイルタの人々は、春から夏にかけては海と川でアザラシやトド、マスやサケを採り、秋から冬にかけては海がオホーツク海の流氷で閉ざされるために山に移動し、トナカイを飼養し、また野生のトナカイを狩って暮らしてきた。しかし日露戦争後にサハリン(樺太)が北緯50度でロシア領と日本領に分断されると、島の自由な移動は妨げられ、彼らは定住生活を強いられることになったという。ウイルタの人々に伝わる伝統的な文様が「イルガ」。渦巻きのような、ハート型にも見えるような繰り返し文様だ。なめしたトナカイの皮、衣服や靴のほか、木製のカトラリにも施されてきた。刺繍に用いられた絹糸は、中国との交易によってもたらされた。展示品の大部分は「北方民族資料館ジャッカ・ドフニ」(北海道網走、1978年開館、2010年閉館。ジャッカ・ドフニとはウイルタ語で「大切な物を収める家」という意味)が所蔵し、その後北海道立北方民族博物館に寄贈された資料。これらは第二次世界大戦後にサハリンから網走に移住してきた人々が守り、伝えてきたものである。古い工芸品は、樺太敷香町(現・ポロナイスク)につくられた先住民集落の教育所で日本人観光客向けにつくられたものだという。つまり、イルガが施された工芸品には、ウイルタの人々の暮らしばかりではなく、交易や被支配の歴史が刻まれているのである。[新川徳彦]

2014/10/28(火)(SYNK)

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