2019年11月01日号
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artscapeレビュー

秋山正仁 展──Sweet Home

2014年11月01日号

会期:2014/09/29~2014/10/04

Gallery K[東京都]

秋山正仁は山梨県在住の美術家。古きよきアメリカの心象風景を長大なロール紙に色鉛筆で描いた絵画作品を、ここ数年、同ギャラリーで定期的に発表してきた。その絵は、偏執的でありながら色鉛筆の淡い色彩が不思議な浮遊感を醸し出しており、その絶妙な二重性が観る者の視線を大いに惹きつけてきた。
だが今回の展示は、これまでにない展開を見せた。絵画作品そのものは従来どおりの作風だったものの、秋山本人が会期中つねに在廊し、スライドギターを演奏しているのだ。ライ・クーダーのような哀愁を帯びた玄音とともに絵画を鑑賞させるという仕掛けである。
とにかく秋山が奏でる音色がすばらしい。表面的には、その音と絵画で表現されているアメリカの風景とが共振することで、見る者の視線を絵画世界の内側に巧みに誘導するという効果がある。だが、それ以上に驚かされたのは、会場にいる自分の身体が動かし難くなってしまったことだ。いや、決して感動のあまり身体が凝固してしまったというわけではない。エンドレスに奏でられるギターの哀切に満ちた音を耳に絵を見ていると、いつまでもその空気に包まれていたいという欲望が湧き上がってくるのだ。逆に言えば、美術ないしは絵画が、その鑑賞にあたって、どれほど見る者に緊張感を強いているかを、まざまざと実感させたのである。
ところが、秋山が秀逸なのは、「美術」と「音楽」を掛け合わせることで、そうした陶酔感を演出しながらも、同時に絵画においては、ある種の覚醒を呼び起こすような主題を描き含めているからだ。絵の中には、アレサ・フランクリンやエルヴィス・プレスリーに混じって、幼少時と思われるオバマ大統領の姿が認められる。彼はデビルから星条旗を受け取っている。この当時、権力と引き換えに魂を売ってしまったがゆえに、アメリカ合衆国の現在があるのだろうか。芸術の政治性とは、政治的な関心や主題が含まれる作品だけを指すのではない。それは、芸術というある種の夢物語の最中にあってなお、政治的な意識を覚醒させることなのだ。

2014/10/02(木)(福住廉)

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