2019年07月15日号
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artscapeレビュー

村田峰紀『ネックライブ』

2014年11月01日号

会期:2014/09/17~2014/09/28

Art Center Ongoing[東京都]

村田峰紀は群馬県在住のアーティスト。みずからの身体を使ったパフォーマンスで知られる。背中をキャンバスに見立ててクレヨンで絵を描いたり、鉛筆の芯をむしゃむしゃ食べたり、大量の文庫本を引き裂いてオブジェに仕立てたり、野獣的で爆発的な身体表現が魅力だ。
今回発表したのは、映像作品。みずからの口や眼をクローズアップした映像に文字のメッセージを当てこんだ。会場の隅の暗がりから聞こえてくる奇妙な音を気にも止めずに映像を見ていたが、どうも様子がおかしい。その音は音楽というわけではないものの、何かの音響装置から流れているような規則性も伺える。村田の身体表現はついに映像に転位したのだろうかと訝りながら、暗闇に目が慣れてきたところで、改めて会場を見渡すと、大きな箱の中から村田が頭だけを出して、何かを必死にわめいていた。
音響装置かと思ったのは村田当人の声だったのだ。その声は「ワンワンワン」なのか、「ウォンウォンウォン」なのかは定かではなかったけれど、とにかくものすごい勢いでわめいている。声をはっきりと聞き取れなかったのは、その勢いに圧倒されたからでもあり、同時に、彼が箱の内側を何かで激しくこすり上げていたからだ。外側からは明確に確認できるわけではなかったが、内側で強力な反復運動が繰り返されていることは気配で察することができる。暗闇の空間を、村田の身体から発せられた波動が何度も行き交い、それらがこちらの身体を前後左右から何度も貫くのである。
安部公房の「箱男」は箱の内側に閉じこもり、小さな穴から外側の世界を一方的に見通す、いわば視線に特化した存在として描写されていた。村田の「首男」は、同じく箱に自閉しているが、その箱の中で暴れまわることで、見えない身体全身の存在感を感じさせていた。いま思えば、村田は眼を瞑っていたような気がするから、村田の「首男」は「箱男」と相似形を描きつつも、内実においてはまったく正反対のネガであると言えよう。
直接見えるわけではないし、言語に頼るわけでもない。けれども身体と身体のあいだを交通する波動によって可能となるコミュニケーションはありうる。村田は、おそらくその恐ろしく微小な可能性を全身で押し広げているのだろう。

2014/09/25(木)(福住廉)

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