artscapeレビュー

ロロ×いわきアリオス共同企画 オンライン演劇部『オンステージ』

2020年08月01日号

会期:2020/06/27~2020/06/28

ロロ×いわきアリオス共同企画 オンライン演劇部「家で劇場を考える」は福島県いわき市にある文化交流施設「いわきアリオス」が「新型コロナウイルス感染症の影響で世界的に苦しい状況が続くなか、(略)“創造的な日常”を応援するべく、芸術文化を通したコンテンツを無料配信する『#おうちでアリオス』」の一企画。『オンステージ』はそこでつくり上げられた作品のタイトルだ。2017年7月から毎年開講されているいわきアリオス演劇部でも講師を務めるロロ・三浦直之を脚本・演出に、セノグラファーで舞台美術家の杉山至をワークショップ講師に迎え、アリオス演劇部のOB・OG(白土和奏、原田菜楠、齋藤永遠、門馬亜姫、秋葉ゆか、森﨑陽)にロロの俳優陣(望月綾乃、森本華、島田桃子)を加えた出演者9名によるオンライン演劇が上演・配信された。

「Zoomをつかって作品をつくってみてもなかなか演劇になってくれない。作品をつくるだけだとそれはやっぱり映像作品で、これを演劇にするためにはきっと観客についてもっと考えなくちゃいけない。演劇はみるだけじゃなくて過ごすものだ」と言う三浦が書いたのは「オンライン演劇を鑑賞する『ホームシアター』開演までの10分間の物語」。八つに分割されたZoomの画面の中央にはミニチュアの舞台らしきものが映っている。残りの七つのウインドウにはそれぞれイヤフォンで音楽(?)を聞きながら思い思いに過ごす人々。ミニチュア舞台の枠に現われた人物の「いらっしゃいませ。みなさま、会場BGMを流しながら、お席にておまちください」という言葉に対し「開演ってあとどれくらいですか」と質問が投げかけられ、もうすぐ演劇が始まるところだということがわかる。どうやら周囲の七つのウインドウに映る人々は観客で、「それぞれのやり方で、各々の気持ち高めていって」いるところらしい。遅れてさらにひとつウインドウが現われ、九つのウインドウが開演のときを待つ。

演劇を観るという体験には、作品を観るまでの、そして観たあとの一連の出来事も組み込まれている。チケットを確保し、劇場の場所を調べ、電車に乗り、劇場に着き、席に座って当日パンフレットを読み、開演を待つ。上演が終われば劇場の近くのラーメン屋に寄り、作品を反芻しながら帰途につく。オンライン演劇をはじめとする、新型コロナウイルスの影響下にある「演劇」あるいはその代替物が、作品の完成度とは別のところで物足りないものになってしまうのは、自宅での鑑賞では、劇場に足を運ぶという体験が、それによって生じるはずの環境の変化が失われているからだ。

だからこそ、三浦は演劇の上演前の時間にフォーカスをあて、開演を待つ観客の姿を描き出す。「お客様には、開演まで、それぞれが用意した音楽を聴きながら過ごしてもらっている」という設定も、それこそ「気持ち高め」るための、自宅にいながらにして劇場気分をつくり出すための工夫だろう。

もちろん、劇場に足を運ぶことは気分だけの問題ではない。環境の変化は出会いの可能性を呼ぶものだ。出会うのは人とは限らない。それはコンビニに並ぶ新商品かもしれないし、いままで通ったことのない路地、そこに見える風景かもしれない。現実のオンライン演劇では、おそらくは運営上のリスク管理の観点から、観客同士の「出会い=接触」は避けられる傾向にある。だが、三浦はあえてオンライン演劇の「客席」を描き、そこで生まれるささやかな交流を描いた。それは「出会い」を描き続けたきた三浦の願いの表われのようにも思えたのだった。

『オンステージ』は脚本と映像のアーカイブが公開されている。9名の出演者のうち台詞のある役は3名のみ。共通の脚本で配役をシャッフルした3チームのバリエーションも見どころだ。


『オンステージ』アーカイブ配信:https://alios-style.jp/cd/app/?C=blog&H=default&D=01989
『オンステージ』台本:https://iwaki-alios.jp/cd/sites/files/2006online_engeki_daihon_3.pdf
『オンステージ』当日パンフレット:https://alios-style.jp/cd/app/?C=blog&H=default&D=01984

2020/06/28(日)(山﨑健太)

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