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東京ミッドタウン・デザインハブ第86回企画展「日本のグラフィックデザイン2020」

2020年08月01日号

会期:2020/07/10~2020/08/31

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

本展は、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)の年鑑『Graphic Design in Japan 2020』の刊行記念として開催された展覧会だ。掲載作品のなかから選ばれた約300点の実物が登場する。ポスター、書籍、パッケージ、雑貨、新聞広告、映像など、グラフィックデザイナーならびにアートディレクターの仕事の領域の幅広さを知ることができる。一覧すると、これがいまの日本のグラフィックデザインの最前線だということがわかるし、やはり全体的に洗練された印象を受けた。注目すべきは、亀倉雄策賞、JAGDA賞、JAGDA新人賞にそれぞれ選ばれた作品だが、亀倉雄策賞については別レビューの第22回亀倉雄策賞受賞記念展「菊地敦己 2020」で述べたので、ここではカテゴリー【環境・空間】でJAGDA賞に選ばれた三澤遥の「興福寺中金堂落慶法要散華 まわり花」について述べたい。

プレスリリースに掲載された第22回亀倉雄策賞選考経緯を読むと、実は最終候補に菊地と三澤の2作品が残ったことが書かれている。三澤の「興福寺中金堂落慶法要散華 まわり花」は、選考委員の間で菊地の作品と同様に注目度の高い作品だったのだ。以前にも私はこの作品をいくつかの展覧会で見てきて、非常に巧妙なデザインだと感心した覚えがある。奈良県の興福寺中金堂では、法要を執り行なう際、諸仏を供養するために屋根の上から蓮の花をまく「散華」という風習があるという。元々、生花が使われていたが、近年は蓮の花びらをかたどった色紙が代わりに使われるようになっていた。三澤は色紙をさらに進化させ、回転から生まれる残像を生かした「まわり花」を考案。それは細長い紙片を折り畳んで三角形の枠にしたようなシンプルな形態だが、空中を舞う間にくるくると回転し、本物の花のような立体感を持つ。二次元から三次元へと紙の可能性を広げ、またグラフィックデザインの領域さえも広げた作品である。これこそ問題解決のためのデザインと言えるだろう。

また、本展でほかに面白く観覧したのは新聞広告である。全体的に行儀の良さを感じるなかで、新聞広告だけはコピーの力もあってメッセージ性が強く、強烈な印象を残した。次年度の年鑑にはどんなデザインが出そろうのか、引き続き注目していきたい。

展示風景 東京ミッドタウン・デザインハブ

展示風景 東京ミッドタウン・デザインハブ


公式サイト:https://designhub.jp/exhibitions/6072/

2020/07/18(土)(杉江あこ)

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