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第22回亀倉雄策賞受賞記念展「菊地敦己 2020」

2020年08月01日号

会期:2020/07/20~2020/09/02

クリエイションギャラリーG8[東京都]

日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員が年鑑に出品した作品のなかから、もっとも優れた作品とその制作者を表彰する第22回亀倉雄策賞が、菊地敦己のブックデザイン『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』に決定した。本展はその記念展である。

私は『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』を見たとき、最近制作された書籍とは思えないほど、長い時を経て生まれる風格のようなものを感じた。よくある「昔の作品なのにモダン」という印象に近い。タイトルもインパクトがある。この書籍は、菊池寛実記念 智美術館で開催された陶芸家、加守田章二の作品展の図録だ。「20世紀後半に活躍し、50歳を目前に夭折した現代陶芸作家の、短くも濃い作陶人生の変遷がおさめられた図録」という解説にも頷けた。最近では珍しい箱付きの装丁で、まず箱のデザインに独特の風合いがある。モノクロームのなか、タイポグラフィーを中心とした落ち着いたレイアウトで、表面に貼られた紙はまるで長い時のなかで黄ばんだようにも見える。そして書籍の表紙は落ち着いたモノクロームから一転して、緑、赤、白の3色を使った躍動的な波模様である。これは日本の伝統文様をも思わせる。箱のデザインが静としたら、表紙のデザインは動だ。まさに「洗練」と「野蛮」を表現しているのだろう。しかし野蛮と言っても、十分に品が備わっているのだが。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[Photo: 鈴木陽介]

菊地敦己のこれまでの仕事を本展で一覧し、何というか、ある種の手触り感が印象に残った。雑誌『旬がまるごと』や『日経回廊』の表紙デザイン、詩集『さくら さくらん』などの装丁を見てもそうだし、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」や「サリー・スコット」のアートディレクション、「亀の子スポンジ」のパッケージデザインなどを見てもそうだ。語弊があるかもしれないが、貼り絵や切り絵のような温かみやざらつきを感じるのだ。『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』についてもやはり同様である。その点が、菊地敦己のデザインに心ならず惹かれる要因なのかもしれない。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[Photo: 鈴木陽介]

展示風景 クリエイションギャラリーG8[Photo: 鈴木陽介]


公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/202004/202004.html
※来場前に登録が必要です。

2020/07/21(火)(杉江あこ)

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