artscapeレビュー

佐藤華連「I 波と影」

2020年08月01日号

会期:2020/07/02~2020/07/19

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

1983年、神奈川県生まれの佐藤華連は、2010年に「だっぴがら」で同年度のキヤノン「写真新世紀」グランプリを受賞した。その後の活躍が期待されたのだが、次の展開がうまく見つけられず、悩んでいた時期が長かったようだ。2016年のKanzan Galleryでの個展「I」(ワン)の頃から、ようやく手応えを感じるようになり、今回のふげん社での個展に結びついた。

佐藤も「New Photographic Objects 写真と映像の物質性」展(埼玉県立近代美術館)の出品作家たちと同様に、現実世界をそのまま写しとるのではなく、写真をコピーして複写するという行程を重ねることによって、画像を改変していく。だが、Nerholや牧野貴や横田大輔の作品が、次第に「像」としての強度を失って拡散していくのに対して、佐藤の場合はむしろ写真に写っている個々の事物の存在感が増してくる。それは佐藤が、画像をあくまでも「自己のフィルターを通して変容」させようとしているからだろう。あらわれてくるのは、モノ、風景、絵画の一部など、断片的な表象なのだが、それらは彼女の「認識や記憶」にしっかりと錘を降ろしているように見えるのだ。

ただ、それぞれの「像」があまりにもバラバラで、相互のつながりがうまく見えてこない。そのあたりをもう少し思い切りよく整理して、「像」の組織化を進めていけば、より緊密に組み上げられたシリーズに成長していくのではないだろうか。「自己のフィルター」の精度を上げ、被写体の幅を狭めてみることも考えられそうだ。

2020/07/03(金)(飯沢耕太郎)

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