2020年09月15日号
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artscapeレビュー

松本徳彦写真展「世界の舞台芸術家 1955〜86年」

2020年08月01日号

会期:2020/07/03~2020/07/09

ギャラリー・アートグラフ[東京都]

舞台写真は、とてもむずかしい写真のジャンルだと思う。写真家は舞台に上がって撮影することはできないので、カメラの位置やアングルを定めるのがむずかしい。照明も条件がいいとはいえないので、早い動きだとブレてしまう。役者やダンサーたちの表情や身ぶりも、ともすれば型にはまったものになりがちだ。松本徳彦は、そんな舞台写真を60年以上も撮り続けてきた。今回の東京・銀座のギャラリー・アートグラフの展示には、日本大学芸術学部写真学科の学生だった1955年に撮影したアレクサンドラ・ダニロワの『白鳥の湖』から、1980年代に至る(1枚だけ1995年撮影のものがある)代表作40点が出品されていた。

すべて、モノクロームの銀塩フィルムで撮影されているのだが、そのプリントが何とも味わい深い。今回の写真展は急に決まったので、プリントは2000年に銀座ニコンサロンで開催した個展のときに焼いたものだという。フィルムの感度はASA100〜200程度だそうだから、ピントをきちんと合わせるだけでも至難の技だろう。だが、白黒のコントラストをつけながら、柔らかみのあるトーンで仕上げたプリントを見ていると、デジタル写真のフラットな調子がひどく単調なものに思えてくる。プリントの仕上げの素晴らしさだけでなく、厳しい撮影条件のなかで舞台上のパフォーマンスに集中している、その緊張感が伝わってきた。

松本の舞台写真は、日本で上演された「世界の舞台芸術家」たちの公演の貴重な記録でもある。多くの劇団や舞踊団はすでに解散しているし、松本が撮影してきたマルセル・マルソー、モーリス・ベジャール、マーサ・グラハムといった巨星もいまはいない。これらの写真群は、ぜひ写真集やポートフォリオの形でまとめておいていただきたい。

2020/07/07(火)(飯沢耕太郎)

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