artscapeレビュー
気になる、こんどの収蔵品―作品がつれてきた物語
2020年08月01日号
会期:2020/07/04~2020/08/27
世田谷美術館[東京都]
2階では近年コレクションに加えられた作品を、エピソードを交えて紹介している。点数は122点と多いが、大半は版画や水彩などのペーパーワークで、油絵も小品が中心。そんななかでも目に止まった作品が何点かあった。宮本三郎の「国立競技場モザイク壁画《より速く》下絵」は、1964年の東京オリンピックの前に描かれたもの。チラシにも使われるだけあってさすがにうまい。戦争画からヌード、公共デザインまでなんでもござれだ。『暮しの手帖』を創刊した花森安治は書画も達筆で、味わい深い。第2次大戦末期、日本に帰らずフランスの収容所に入れられたという末松正樹のドローイングも貴重だ。
でもいちばん惹かれたのは、花澤徳衛という人の4点の油絵。ぜんぜん知らなかったが、岡本太郎と同じ1911年生まれで、家具職人からスタートし、斎藤与里に油絵を習ったと思ったら、なぜか東宝専属の映画俳優に転身。戦後はフリーの俳優となり、2001年に没という破天荒な経歴の持ち主だ。その絵は一見稚拙に見えながらも、油絵の基礎を身につけているため鑑賞に堪える、というだけでなく、かなりユニーク。出品された4点はいずれも80歳前後の作品だが、そのポップなデフォルメは同世代にも同時代にも例を見ない。この4点だけだろうか、もっとあったらまとめて見たい。
2020/07/08(水)(村田真)