artscapeレビュー

寺田真由美「天視—Another Angle—」

2020年08月01日号

会期:2020/06/19~2020/07/19

Gallery OUT of PLACE TOKIO[東京都]

寺田真由美は紙などで小さな部屋をしつらえ、その中にやはり作りもののミニチュアの家具を置き、ライティングして撮影する写真作品を発表してきた。その「不在の部屋」には人の影がない。観客はそのことで、逆に幻の部屋の住人たちへの想像力を喚起され、あたかも彼らの気配を感じるように導かれる。

今回、Gallery OUT of PLACE TOKIOで発表された新作「天視—Another Angle—」でも、基本的にそのコンセプトに変わりはない。だが実際に作品を見て、以前とはかなり印象が違うことに驚いた。それはひとつには、静謐なモノクローム作品が多かった寺田の仕事がカラーになっていること、さらに「部屋」そのものよりも、窓の向こうに広がる「空」が大きくフィーチャーされていることによるのではないかと思う。10点の作品の中には、シンプルにオブジェと「空」だけで構成されたものも含まれている。

アルフレッド・スティーグリッツ、荒木経惟など、「空」は多くの写真家たちの被写体となってきた。それらは多くの場合、写真家の内面的な精神の波動に共振し、それらを映し出す鏡として機能している。寺田も同じように、「空」を撮影することで、「真の美とは何だろう?」、「本当に大切なものとは何だろう?」という、アーティストにとって最も本質的な問いかけに答えを出そうとした。その結果として「天視人」という存在に思い至る。この写真シリーズは、「空を見る人」、すなわち「厳しくも優しい天視人の心象風景を想像」してみることでかたちをとっていった。

寺田は普段はニューヨークで暮らしているが、コロナ禍で帰ることができず、今は日本に滞在している。「空」は世界中、どんな場所でも高みに広がっているが、その時々の状況で、それを見る人の「心象風景」も変わる。寺田の次作は、どんなたたずまいになるのだろうか。

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