artscapeレビュー
作品のない展示室
2020年08月01日号
会期:2020/07/04~2020/08/27
世田谷美術館[東京都]
最近は足が遠ざかっているとはいえ何十回も通った世田美だが、空っぽの展示室を見るのは初めて。コロナ禍でスケジュールに穴の開いた美術館の苦肉の策か、ただの開き直りか、作品を置かない展示空間だけを公開したのだ。これを「Days Without Art」なんてするとプロテスト感が出るのだが、ここは政治性を排してあっけらかんと「作品のない展示室」。入館するとさっそく検温だが、ほかのところもそうだけど、ピストル型の体温計を頭に向けるのはやめてほしい。わかってるけど、せめて腕にしてもらえないかなあ。でも入場無料だから許してやる。
まず、長い通路を渡って扇形の部屋に出る。企画展のときはたいてい隠されているけど、正面に大きな窓が4つ開いて、緑豊かな砧公園が見渡せる。奥に赤茶色の屋根、右手すぐ手前に太い樹木。けっこうな借景でございます。設計者の内井昭蔵は「生活空間」「オープンシステム」「公園美術館」という、美術館としてはいささかジレンマに富んだコンセプトを掲げ、ほとんど使われないことを承知で窓を多く設置した。そのことがわかるのが次の大きなギャラリーで、左側の壁面にはズラッと窓が並んでいるではないか。展覧会のときは窓にも床にも仮設壁が立てられ、迂回しながら次の部屋に進んでいくだけなので、窓があること自体まったく気づかなかった。こうして見るとまるで体育館みたい。
次の部屋は明かりを落とし、過去の展覧会のポスターを投影している。その左側の壁が開いていて、レストランへの通路を隔てて大きな扉が見えるが、そこが作品の搬入口だそうだ。その部屋の右隣に小部屋があり、確かその奥に窓があったはずなのに、いまは壁になっている。ここに窓は必要ないと塞がれてしまったんだろうか。最後の部屋では、これまで館内で行なわれたパフォーマンスなどの記録映像を壁に映している。そのため部屋が暗かったこともあり、どんな空間だったか記憶にない。ほかの展示室は空間特性が際立って見えたのに、ここだけ映像作品が展示されたため、空間特性が消えてしまっていた。なるほど美術館建築というのは、少なくとも室内空間は、作品を映えさせるために空間自体が目立つことを極力抑えなければならないのだ。という当たり前のことを再認識させてくれた。
それなりに空間を味わいつつ、美術館建築についても思いをめぐらせつつ進んできたつもりだが、まだ20分もたってない。やっぱり展覧会と違って、作品がないとあっという間だなあ(笑)。
2020/07/08(水)(村田真)