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東京クロニクル1964-2020展—オリンピックと東京をめぐる創造力の半世紀—

2020年08月01日号

会期:2020/06/09~2020/08/10

町田市民文学館ことばらんど[東京都]

本当ならば、東京オリンピックの開催に合わせて、その関連イヴェントも多数企画されていたはずだ。新型コロナウイルス感染症の拡大で、それらの多くが影響をこうむることになった。町田市民文学館ことばらんどの「東京クロニクル1964-2020展—オリンピックと東京をめぐる創造力の半世紀—」展も開催が延期されて、ようやく6月9日にオープンした。しかも、内容的に1964年と2020年の2つの東京オリンピックが柱となっているので、ややタイミングがずれてしまったことは否定できない。

とはいえ、「1960年代:オリンピック前後の『東京』事情」、「1960〜1970年代:激動の季節の終焉と消費の時代」、「1980年代:新しい家族のカタチと『東京論』の誕生」、「1990年代:バブル崩壊と『個性』の時代」、「2000〜2010年代:ゼロ年代批評と新しいコミュニケーション」の5章構成で、それぞれの時代の文学、美術、写真、デザインなどを通して、「オリンピックと東京をめぐる創造力の半世紀」を読み解いていくという展示意図はしっかりと貫かれており、200点近い出品点数の充実した展示だった。

中心になっているのは、開高健、森村誠一から村上春樹、伊藤計劃に至る文学や、亀倉雄策、赤瀬川原平らの美術・デザインの仕事なのだが、そこに2人の写真家の作品が大きくフィーチャーされているのが目についた。春日昌昭(1943〜89)の「オリンピックのころの東京」の写真47点と、渡辺眸(1942〜)の「東大全共闘1968-1969」の写真24点である。どちらも貴重なヴィンテージ・プリントであり、その生々しい臨場感はただ事ではない。時間を経て写真を見直すときに、そこに写っている被写体だけでなく、それらを取り巻く空気感がありありとよみがえってくることに、あらためて驚嘆させられた。特に、春日昌昭が東京綜合写真専門学校在学中から、主観的な解釈を排して、客観性に徹して撮影したオリンピック前後の東京の街の写真群は、写真史的にも重要な意味を持つものといえる。画面の細部から、視覚だけでなく五感を刺激する情報が次から次へと立ち上がってくる。

2020/07/17(金)(飯沢耕太郎)

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