artscapeレビュー
‘文化’資源としての〈炭鉱〉展
2009年12月01日号
会期:2009/11/04~2009/12/27
目黒区美術館[東京都]
文字どおり「文化資源」としての炭鉱に焦点を当てた展覧会。同館を会場とした「<ヤマ>の美術・写真・グラフィック」と「川俣正コールマインプロジェクト~筑豊、空知、ルールでの展開」、そしてポレポレ東中野との共同企画として催される映像プログラム「映像の中の炭鉱」の3つのパートで構成されている。「<ヤマ>の美術・写真・グラフィック」では山本作兵衛の《筑豊炭鉱絵巻》をはじめ、土門拳の《筑豊の子どもたち》、岡部昌生の《ユウバリマトリックス》、上野英信らによる《写真万葉録・筑豊》など、炭鉱にまつわる絵画・写真・版画・彫刻・ポスターなどあわせて400点あまりの作品や資料が一堂に会しており、その物量に圧倒される。炭鉱に何の記憶を持たない者でも、たとえば田嶋雅巳の写真シリーズ《炭鉱美人》を見れば、かつて炭鉱で働いていた女たちの証言をとおして当時の暮らしや労働をうかがい知ることができるだろうし、山本作兵衛がみずから歌った炭鉱歌を耳にしながら炭鉱絵巻を見れば、ただ単に絵を読むよりいっそう<ヤマ>の雰囲気を感じ取ることができるだろう。ただ「川俣正コールマインプロジェクト」の会場は、ダンボールを一面に敷き詰めて田川の街並みを再現したインスタレーションだったが、単なる資料展というかたちを回避する意欲は伝わってきたものの、運動としてのプロジェクトのおもしろさをモノとしての展示に落とし込むことの難しさが十分にクリアできているとは到底いえない、何とも侘しい展観だった。しかし、このことを差し引いたとしても、本展は近年まれに見る好企画、決して見逃してはならない展覧会であることはまちがいない。学芸員・正木基による関係者へのインタビューや研究者による論考が収められた図録も充実の出来映え。久々に「読める図録」でうれしい。
2009/11/8(福住廉)