2021年09月15日号
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artscapeレビュー

黒沢美香『耳』(ミニマルダンス計画──起きたことはもとにもどせない)

2009年12月01日号

会期:2009/11/25~2009/12/06

こまばアゴラ劇場[東京都]

久しぶりに「黒沢美香らしい黒沢美香に圧倒させられる」という喜びを味わった。共演のコントラバス奏者・齋藤徹は白髪の巨体、黒沢の身体を普段より一層小さく見せた。本作の魅力を引き出したのは、第一に、このコントラストだったろう。胸のあたりがややだらしなくVネックになった赤いレオタードの黒沢は、普段以上に彼女を少女に見せる。冒頭、黒沢と向き合い、体をくねらせ手を激しく回すと齋藤は衣擦れの音を奏でる。けれども、その身のこなしはミュージシャンをダンサーにする。黒沢も横で踊るが、その踊りからも音が漏れている。うまい。音楽家もダンサーも、どちらも演奏しダンスしている。そう示すことで2人は舞台上で対等の存在になっていた。音楽家とダンサーのセッションでいいものはきわめて少ない、とくにこうした対等の関係が成立していることなんて本当にない。以前本レビューで紹介したサンガツとホナガヨウコのセッションはきわめてレアな成功事例。その成功がお互いをよく見、よく聴くことにあったとすれば、黒沢と齋藤とのあいだで起きていたのも、まさにそうした聴くことと見ることの高密度なクロスオーヴァーだった。少女な黒沢と先に述べたけれど、黒沢の少女性は、つんとすまして我を張って、なのに他人に振り回されてしまうところにあって、そんな集中と気散じが黒沢の身体を通してリズムを生む。黒沢らしいダンスを堪能した一夜だった。

2009/11/28(土)(木村覚)

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