artscapeレビュー
2011年06月01日号のレビュー/プレビュー
『民芸運動と建築』
「それまで見過ごされてきた日常の生活用具類などに美的価値を認めようと、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって大正末年・昭和初年に始められた運動。短く辞書風に書くならば「民芸運動」はこのように紹介されるだろう」とはじまる本書は、こうした民芸運動と建築との関係を、広い視野で展望したもの。「濱田庄司邸」「日本民藝館」「河井寛次郎記念館」「倉敷民藝館」など、民芸運動に関わりのある建物や調度品が豊富な写真とともに紹介されている。また、1998年に発見され話題となった、「三国荘」や「高林兵衛邸」など、書籍として初公開の建築も多い。民芸運動や建築の専門家5人による最新の研究成果や情報も充実している。「民芸の建築」を楽しめる写真集として、あるいはこれまで部分的にしか語られなかった「民芸運動と建築との関わり」を知る研究書として、意味のある一冊だ。
[金相美]
2011/05/20(金)(SYNK)
カリブ海とクナ族のモラ
会期:2011/05/13~2011/06/11
世界は海によって分断されているのではなく、海によってつながっている、との考えから世界の海の暮らしを手仕事を通じて紹介する連続企画の第1弾。「モラ」とはパナマのカリブ海沿岸の島々に暮らす、クナ族の民族衣装に施されたアップリケ刺繍のことである。黒い布をベースに複数の色布を重ね、模様を切り抜き、刺繍を施していく。はっきりとした輪郭と鮮やかな色彩。模様には生活の場である海をモチーフとした図案も多いが、そればかりではなく、伝説や空想の世界から、動植物、身の回りの品々まで、あらゆるものが用いられ、これがとても面白い。刺繍の技術は母親から娘へと伝えられ、作品を身にまとうのも女性たちである。
現在ではブラウスに使用されるこの刺繍であるが、その歴史は必ずしも古いものではない。17世紀後半にクナ族と数カ月を過ごしたイギリス人は、女性たちは上半身が裸で膝までの腰布を巻いていると伝えている。彼女たちは鮮やかな絵の具で体中に絵を描いていたという。やがて、18世紀半ばにはイギリス人やフランス人との交易によって外国製の布を手に入れた女性たちは、その布で身体を覆うようになり、それまで肌に直接描かれていた模様が身につける布に描かれるようになったというのである。異文化との交流により新しい文物が生活に入り込み、生活の様式は表面的には変化した。しかしかつて女性たちの身体を飾った装飾の伝統は、素材やモチーフを変えつつも、彼らの生活の根底に脈々と受けつがれているのである。
会場には色とりどりのモラが展示され、またモラの制作風景やクナ族の祭りの映像を見ることができる。7つの海を主題とするこの企画、カリブ海から次はどこの海につながっていくのか、楽しみである。[新川徳彦]
2011/05/20(金)(SYNK)
手塚夏子『民俗芸能と3.11以降』(2日目「実験地獄──生きたいから反応する」)
会期:2011/05/21~2011/05/22
小金井アートスポット シャトー2F[東京都]
1年以上前から国内外の祭りや芸能上演の場に行き、調査を繰り返している手塚夏子。これまでに獅子舞を試演したこともあるという。彼女のこうした方面へのアプローチを今回初めて体感した。大いに期待してしまうのは、昨年の公演『私的解剖実験5 関わりの捏造』に祭りの要素があったからで、そのときぼくのなかに「都市においてダンスの上演は今日的な祭儀の場となりうるのか?」という問いが浮かんだのだった。「都市に祝祭はいらない」と平田オリザが口にしてから十数年経つ。ぼくらの祝祭の要/不要あるいは可能性/不可能性をめぐる問いに、手塚はどう迫ろうとしているのだろう。
「実験地獄」と称された本上演は、休憩含め4時間。公演というより、あらかじめ用意した10個の課題を観客にも参加をうながしながら実演してゆくといった体裁。床に散らばる日常の小物たちを拾い、小物から喚起されたイメージを隣のパフォーマーに実演させたり、繰り返すシンプルな動作を「問い」とみなして「問い」を発した者以外の参加者が言葉でそれに「答え」たりと、焦点は各人のイメージの交換にあるようだ。課題の合間のトークで、手塚はそこに「見立て」というキーワードを置いた。「しめ縄」がときに「蛇」ときに「川」に見立てられるように、民俗芸能にしばしば見られる「見立て」、これに注目してみようというのだ。パフォーマーと観客が取り組む作業はしかし、民俗芸能の内に潜む、なにかをなにかに見立てたい「欲望」には直接触れない。この欲望に共同体の結集する力が潜んでいるのだろうし、祭りに集う者たちの共有する熱を煽って、それは祭りのテンションを高めることだろう。しかし、「実験地獄」はその点を括弧にいれたまま進む。モダニスティックな手つきが、なにか大事なものを無視しているように見えてイライラさせられもする。けれども、わかりやすく人を結集させるなにかを安易に置かないことによって、「見立て」の作業は、参加する個々人の抱える欲望の深みへ向かおうとしているかに見えた。
ぼくたち(いや内実をもった「共同体」というものが成立し難いいま「ぼくたち」などと言って集団を括ることはできない、とすれば「ぼくたちの各々」とでも言い直すべきだろう)が今日なにを真に欲しているのか、その問いを無視するならば、どんな祭りも形骸化するだけだろう。その問いは間違ってはいない。そのうえで思うのは、人を巻き込み、祭りの熱狂へと人を誘う、その手管に関しての地獄のような実験も見てみたいということだ。
2011/05/22(日)(木村覚)
プレビュー:Nibroll『This is Weather News』
会期:2011/06/24~2011/07/03
シアタートラム[東京都]
Nibrollの新作『This is Weather News』が一押しです。Nibrollと言えば矢内原美邦の振り付けばかりが話題になりますが、もともとNibrollとはアーティスト集団の呼び名です。衣装や映像などを担当する作家集団としての彼らの久しぶりの東京公演が、これです。昨年あいちトリエンナーレ2010で初演された作品。今回の上演では、東日本大震災以後の状況というものがテーマと深く関わり、さらに「推敲」が重ねられているそうです。昨年の矢内原美邦による『あーなったら、こうならない。』では、戦争のイメージなど不吉な「非日常性」が作品に際立った印象を与えていましたが、本作では、そうした「非日常」が日常と化したいまの日本の状況がきっととりあげられることでしょう。そこで、どんな表現が彼らのメッセージとして投げかけられるのか、期待したいところです。
2011/05/31(火)(木村覚)