artscapeレビュー

2013年05月01日号のレビュー/プレビュー

日常/非日常 展

会期:2013/03/15~2013/04/01

世田谷文化生活情報センター:生活工房[東京都]

「日常/非日常」展は、起こりうる災害を前提にデザインに何ができるか、何をするべきかを示す展覧会である。東日本大震災は被災地域の外にいた人々にとっても、自然災害などで突然訪れる非日常にどのように備えるかを考えるきっかけを与えた。デザインに求められる課題は大きく分けてふたつある。ひとつは、災害発生への備えで、さしあたりの医薬品や衣料、食料などの準備と、電気やガスなどのインフラが失われたときのための備えである。ここでは、保存食や充電式ライト、ポータブル電源などの製品が紹介されている。とくに興味深かったのは、ソーラー充電式LEDライトや、蒔コンロ、飲料水の濾過器など、途上国向けの製品が紹介されている点である。インフラが不十分な地域のためのデザインは、私たちの「非日常」への備えでもありうるのだ。またここでは『日経デザイン』誌が提唱する「スマートデザイン」が紹介されている。個々人の限られた住空間では、非日常のためだけに何かを備えることは十分にできない。日常と非日常とで共用できる製品があれば空間的にも経済的にも二重の投資をせずに済む。そのようなコンセプトの製品を「スマートデザイン」と呼ぶ。普段はコンセントに差しておき、停電時には持ち運びができる充電式ライトや、長期保存が可能なお菓子の缶詰や、暖めずに食べられるレトルトカレーなどがその例である。また、身の回りにあるものを用いて生きのびるための知恵を集めたデータベース「OLIVE」も日常を非日常に転用するために誰でも利用可能な優れた事例集である。もうひとつのテーマは、避難生活など災害発生後に生じる「非日常」への備えである。ここで必要とされるのは、物理的な支援よりも、心理的な安心感であり、非日常のなかに日常を取り込む工夫が紹介されている。避難所に設置される簡易的な間仕切りは、デザインが解決しうる課題の代表的な例であろう。備えあれば憂いなしという言葉は余りに陳腐だけれども、それに尽きるという印象である。デザインによる問題解決は、メーカーにとってもデザイナーにとっても、これからますます大きなフィールドになりうるだろうことを実感した。[新川徳彦]

2013/04/01(月)(SYNK)

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STUDIO AFRICA

会期:2013/03/01~2013/05/10

DIESEL ART GALLERY[東京都]

イタリアのファッションブランド・DIESEL創業者のレンツォ・ロッソと、ロックバンドU2のボノ、ボノの妻でありファッションブランドEDUNの設立者アリ・ヒューソンによるコラボレーション・プロジェクト「DIESEL+EDUN」を紹介する展覧会。EDUNは2009年からウガンダ北部に設立したConservation Cotton Initiative(CCI)というプロジェクトで高品質の綿を生産している。DIESELとのコラボレーションでは、CCIで生産された綿を使用し、アフリカのデザインのスタイルを取り入れたデニムのジャケットやパンツを製造している。ものづくりの手段、マーケットを提供し、地域の自立をうながす、持続性のあるプロジェクトと言えよう。ビデオによる解説とプロダクトの展示が中心であるが、それに加えてアフリカで活躍する若手アーティストやジャーナリストが写真とテキストで紹介されている。そのなかでも南アフリカのスラム街で育ったという3人組のフォトグラファー・ユニット「I SEE A DIFFERENT YOU」が、プロジェクトのキャンペーンのためにフィーチャーされている。tumblrでスラム街を背景としたパノラマサイズのセルフ・ポートレートを発表していたという彼らの写真は明るく、お洒落で、ポジティブ。アフリカへの支援活動には、人々の貧困や社会資本の不備を強調して同情を誘うタイプのプロモーションもあろう。しかし高品質の綿を用いたデニム製品の製造と、「I SEE A DIFFERENT YOU」のポジティブな写真は、経済状況からステレオタイプな印象を抱きがちな私たちに、アフリカの多様な可能性を見せてくれる。[新川徳彦]

2013/04/03(水)(SYNK)

棚田康司「たちのぼる。」展

会期:2013/04/06~2013/05/26

伊丹市立美術館、旧岡田家住宅・酒蔵[兵庫県]

棚田康司は兵庫県明石市出身だが、大学進学以後関東を拠点に活動しており、本展は彼にとって初の地元個展である。大学時代から最新作までの彫刻約50点とドローイングが出品されており、これまで彼の作品を見る機会が少なかった関西の美術ファンを喜ばせている。棚田の作品は伝統的な一木造の木彫であり、華奢な胴体と細長い手足の人物が、よろめくようなポーズと上目使いで立ち上がろうとしている。印刷物や画像ではエキセントリックな印象が強かったが、実物を見ると強い意志がみなぎっていることに驚かされた。やはり実物を見ないことには何も始まらない。また、美術館に隣接する江戸時代の商家と酒蔵でも展示が行なわれており、ホワイトキューブ空間とは違う鑑賞体験ができるのも本展の魅力である。彼の最新作《たちのぼる》(2点組)では、東日本大震災で被災した仙台市の高校生と、阪神淡路大震災の年に生まれた明石市の高校生が制作に参加している。本作が2点セットで初披露されたのも意義深いことであった。

2013/04/06(土)(小吹隆文)

Three Phase Session─Draw/Sound/View

会期:2013/04/06

ギャラリーノマル[大阪府]

音楽ユニットの.es(ドットエス)が即興演奏するなか、美術家の名和晃平がライブドローイングを行ない、その模様を美術家の稲垣元則がハンドカメラで映像化した。名和は素材の扱いに一癖ある作家だが、この日も絵の具にシェービングクリームや洗剤らしきものを混ぜたメレンゲ状の画材を駆使しており、その工程をオープンにしたことで観客の興味をそそっていた。.esは計4時間以上にわたる長丁場をだれることなく演奏し続け、稲垣はビジュアルとサウンドの融合を現場で行なうことに成功していた。音楽とライブペインティングの組み合わせは珍しくないが、このイベントは、ペインターが名和晃平だったことと、映像作品というもうひとつの要素を加えたことでオリジナリティーを創出したと言えよう。

2013/04/06(土)(小吹隆文)

游谷 上出惠悟

会期:2013/04/08~2013/05/05

Yoshimi Arts[大阪府]

130年以上の歴史がある九谷焼の窯元の六代目であり、個人でも活動している上出惠悟。その作品は、九谷焼の伝統に現代の感性を融合させたものだ。彼はディレクター的立場で制作を行なっており、実制作は主に工房の職人が行なっている。ただし、本人が絵付けをした作品もあるので、臨機応変な制作スタイルと考えるべきだろう。本展では、皿、茶碗、盃、蓋物、壺など20点以上が出品された。映画のカメラワークのように一連のシークエンスを描いた長皿の連作、高蒔絵のように盛り上がった金色の梅文様で埋め尽くされた髑髏の菓子壺、金継で富士の模様を描いた花詰の大皿……。どの作品にも遊び心に満ちた歴史と現代の対話が感じられるのが興味深い。シミュレーショニズムのようにすかした態度ではなく、ごく自然に過去を参照できるのがこの人の強みだ。

2013/04/08(月)(小吹隆文)

2013年05月01日号の
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