artscapeレビュー

2014年09月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:京都銭湯芸術祭2014

会期:2014/09/27~2014/10/26

京都市北区・上京区の銭湯8店舗(紫野温泉、門前湯、大徳寺温泉、加茂湯、若葉湯、龍宮温泉、京極湯、長者湯)[京都府]

古来より老若男女の社交場としての役割を持っていた銭湯。そこにアートを介入させることにより、銭湯、アート、人間の新たな関係性を構築しようとするのが本展だ。西垣肇也樹をはじめとする5人の若手アーティストが実行委員会を組織し、応募者のなかから8名の出品作家を選出。出品作家には、作品としての本質的な魅力に加え、銭湯の空間的特性を生かした作品が求められている。また、椿昇を始めとする3名の審査員を招聘し、湯賞(グランプリ)などの賞を授与する予定だ。

2014/08/20(水)(小吹隆文)

IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器

会期:2014/08/16~2014/11/30

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

大阪市立東洋陶磁美術館所蔵で今回初公開となるコレクションに、サントリー美術館、九州陶磁文化館の所蔵品を加え、1660年から1757年まで約100年にわたった輸出伊万里の歴史を辿る展覧会である。すでに最初の巡回先であるサントリー美術館での展示を見ているので、ここでは展示構成のおもな違いについて触れる。この時期の伊万里焼は、国内向けと輸出向けの製品で、種類や意匠も異なっていた。東洋陶磁美術館の伊万里焼コレクションはヨーロッパで蒐集されたいわゆる「里帰り品」であり、ヨーロッパ向けの製品。それをふまえてヨーロッパにおける受容のコンテクストをより強調する構成になっている。具体的には、おもにヨーロッパ向けに生産された大壺の数々が最初の展示室に集められていること。また展示デザインにはヨーロッパ人にとって奢侈品であった東洋磁器をイメージさせる工夫が施されている。エントランスから階段を登り展示室に入るまでの床には赤い絨毯が敷かれ、展示室の入口は重厚なカーテンで飾られている。入ってすぐの壁には、本展を担当した小林仁・東洋陶磁美術館学芸員が撮影した磁器の間のある宮殿・美術館の写真がデコラティブな金縁の額に入れられて展示されている。大壺の大部分は壁面のケースに展示されているが、裏側の意匠も見えるように背後に大きな鏡が設置されている。そしてその鏡もまた額縁付(美容院で用いられるものらしい)。こんな展示は初めて見た。展示ケースの壁面にはヨーロッパ調の濃い色彩の壁紙が貼られているが、その文様はオリジナルという凝りようである。とくに印象に残る作品は《染付高蒔絵牡丹唐獅子文大壺・広口大瓶》。伊万里の染付磁器に長崎で高蒔絵を施した大壺である。もうひとつは《染付蒔絵鳥籠装飾付広口大瓶》。やはり染付に高蒔絵を施し、さらに鳥籠状の装飾が付され、中には木製の鳥が2匹おかれている。明治期の宮川香山の作品を思い出させる奇妙な装飾であるが、マイセン窯でも本作の写しがつくられたということは、ヨーロッパ人好みの意匠だったのだろう。後者は展示室中央の独立ケースに展示されているが、ケースのガラスにカッティングシートで楕円形の窓があけられていて、そこから覗き込む。チラシや図録表紙のデザインを模しているのだ。撮影コーナーにもなっている最後の展示スペースには、ドイツ・シャルロッテンブルク宮殿の図面を背景に大壺3点の露出展示があり、またその隣では同宮殿の磁器の間の写真をバックに記念撮影ができるようになっている。現地に旅した気分になれるかといえば微妙だが、これまたデコラティブなソファに座って写真を撮るとなかなかいい雰囲気だ。それ以外の展示は他館の展示と同様に時系列となっているが、陶磁器専門の美術館の展示ケースと自然光を再現したLED照明の下では、作品はまた違って見える。ポスターやチラシ、展覧会図録、会場デザインはすべて上田英司氏(シルシ)。図録の作品写真撮影は三好和義氏(東洋陶磁美術館所蔵品のみ)。図録の大胆なレイアウトは一見の価値がある。[新川徳彦]


左=展示室入口
右=第一展示室


撮影コーナー


本展図録の一部

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2014/08/20(水)(SYNK)

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core of bells『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』(「怪物さんと退屈くんの12ヵ月」第八回公演)

会期:2014/08/20

Super Deluxe[東京都]

開演前、会場は入口の前に押し込められた観客で溢れていた。観客はあらかじめ「ゲームタイトル『ヘルパトロール』」と記された指示書を受付で渡されていた。そこには観客が「鬼」チームと「罪人」チームに分かれて戦うことなど、ゲームのルールや進行が事細かに書かれてある。しかし、いくら読み返しても頭に入らない。複雑なのだ。しばらくすると、青い鬼と赤い鬼が、遅れて顔が半分赤く半分青いミックスの鬼が現われ、ゲームの説明を始めた。軍手が渡される。内側に「鬼」か「罪人」かが記されているという。見ると「鬼」だ(知人たちと確認した限り、すべて「鬼」だった)。ゲームの開始が告げられる。閉ざされたエリアに入ると、会場のSuper Deluxe内に迷路と六カ所の部屋ができている。観客は、ルールに従い暗号を探し読み、メモをとる。「鬼」は「罪人」の振りをし、「罪人」は「鬼」の振りをする(そう指示書に促されていたままに)。昼の時間が終わり夜になる。暗い中で部屋に閉じ込められ、その場で足踏みするよう指示される。目を瞑って結構長い間歩く(夜なのに歩かされている!)。足踏みのあいだ、結構複雑なやりとりがなされているはずだが、目を瞑っているので何が起きているのかはよくわからない。この昼の時間と夜の時間が5-6回繰り返された。そして新たな昼が来るたびに、半透明パネルでできた部屋はひとつずつ解体される。最後は、大きな部屋に観客全員が集められ、夜の時間を過ごす。つまり、ひたすら足踏みさせられる。ただでさえ暑いのに、足踏みの疲労でくたくたになるが、足踏みの音はやまない。「ようやくか!」と心で叫び、昼が訪れる。照明で周囲が明るくなった。すると、core of bellsのメンバーたちは、それまで何事もなかったかのように、このシリーズで毎回行なっているアフター・トークを始めていた。観客は、ゲームがよくわからぬまま終了したことはわかるのだが、だからといってこの取り残された状況がつかめないと、怪訝な表情で眉間にしわを寄せたまま、一文字に並びトークを続ける彼らを見つめる。けれども、彼らのトークの話題はラーメン屋に行った行かないとか身内の揉めごとばかりで、聞いてもいっこうに当を得ない。狸に化かされた、なんて言い回しがあるが、まさにそんなぽかんとした空気が会場を埋め尽くした。「煉獄プランナー」の肩書きで参加した危口統之は、ゲーム中の指示をマイク越しにずっと行なっていたけれども、彼の参加は今回のアイディアに大きく作用しているようだった。それにしても、観客は目を瞑ってはいけなかったのだ。目を瞑っては何が起きたのかも何が起きなかったかもわからない。〈観客にもかかわらず目を瞑ってしまう〉というこの事態を引き起こしたところに、今回の上演の成功はあったというべきだろう。見るために目を瞑り、目を瞑ったがために見られなかったというこの矛盾、絶望! 観客を巻き込む仕掛けの施された舞台上演は最近多いが、観客を絶句させる力の点で今作は図抜けていた。

2014/08/20(水)(木村覚)

グラフィックトライアル2014──響。ひびき

会期:2014/06/07~2014/08/24

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

今年で9回目のグラフィックトライアル。解説によれば今年のテーマ「響」は「音や声が空気に乗って伝わること」「音が響くように作用が及ぶこと」だという。参加デザイナーは、浅葉克己、水野学、長嶋りかこ、南雲暁彦らの四氏。グラフィックデザイン界の重鎮・浅葉克己のトライアルは、NASAの探査機が高解像度カメラで撮影した火星の地表と自らの書を組み合わせたグラフィック。墨絵のようなモノクロームの写真と薄墨を滲ませたロゴ表現に銀を用いることで、階調豊かなモノトーンの表現を実現している。水野学は「平和の響き」を青い空と白い鳩とで表現。濁りのない透明感ある青空の表現を試行した結果、空は版を重ねるよりもシアン版1版のみを特色に変えて刷った表現が一番良かったという話は面白い。他にフィルムやデジタルで撮った写真の印刷再現性を試みている。長嶋りかこのトライアルは、黒の質感表現。鉛筆、絵の具、マーカー、ボールペンなど、素材によって異なる黒のマテリアル感を出すために、今回のトライアルのなかでは一番多くの版を重ねている。フォトグラファー南雲暁彦のトライアルは風景写真。ただしオリジナルのプリントを再現するのではなく、フォトグラファーが撮影現場で感じた色につくり込むことを目指す。プリンティング・ディレクターは現場を見ていないので、フォトグラファーの意図を解釈しながら、版を設計してゆくことになる。「響」という言葉は今回のトライアルのためのテーマである同時に、デザイナー、フォトグラファーの表現とプリンティング・ディレクターの技術との響き合いでもあるという印象を受けた。[新川徳彦]

2014/08/24(日)(SYNK)

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ジョージ・ネルソン展──建築家、ライター、デザイナー、教育者

会期:2014/07/15~2014/09/18

目黒区美術館[東京都]

アメリカのデザインディレクター・ジョージ・ネルソン(George Nelson, 1908-1986)の回顧展。ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムの企画による世界巡回展で、家具、プロダクト、模型、映像資料など約300点が出品されている。20世紀後半のアメリカデザイン史を知るうえで必見の展覧会。国内では目黒区美術館のみでの開催である。
 1931年にイェール大学で建築の学位をとったネルソンは、ローマ留学を経て帰国後にニューヨークに建築事務所を設立。また『アーキテクチュアル・フォーラム』誌などの建築雑誌の編集の仕事を行なっていた。建築家ヘンリー・ライトとの共著『明日の家』(Tomorrow's House, 1945)に壁面型の収納ストレージウォールを提案。これが『ライフ』誌に取り上げられたことで、家具製造会社ハーマンミラー社の社長D・J・ディプリーの目にとまり、1945年から1972年まで同社のデザインディレクターを務めることとなった。それではハーマンミラー社との仕事でネルソンはなにを成し遂げたのであろうか。いや、このような疑問は奇異に聞こえるかも知れない。家具会社と契約したのだから家具のデザインをしたのだろう、と。ところが実際のところ、かつてネルソンのデザインとされていた仕事のほとんどがネルソン・オフィスの他のデザイナーたちの仕事であり、しばしばそれらに目を通してもいなかったことが明らかになっているのだ。それならば、ネルソンはなにをしたのか。
 ネルソンの功績のひとつは、イームズ夫妻やイサム・ノグチ、アレキサンダー・ジラードらをハーマンミラー社に引き込み、その結果デザイン史に残る多数の名品を生み出させたことと言われる。1947年にネルソン・オフィスに加わったアーヴィング・ハーパーによれば、ネルソンはいわばデザイン界のセルゲイ・ディアギレフだったという★1。自らデザインしなくても優れた才能を見出し、人と人、人と企業を結びつけることで新しいものを生み出す。ネルソンは触媒的才能を持った人物だったのだ。もうひとつの功績は、ネルソン(あるいはネルソン・オフィス)が家具を個別にデザインするのではなく、そこにシステムという考えを持ち込んだことにある。「ベーシック・ストレージ・ユニット」や「アクション・オフィス」といったシステム家具を生み出したばかりではなく、家庭やオフィスインテリア全体のなかでそうしたデザインがどのように位置づけられるかを構想している。現在ではあたりまえとなった考え方であるが、ネルソン以前にこれを具現化した者はいなかったといわれる。さらにいえば、ネルソンはハーマンミラー社の製品だけではなく、ハーマンミラー社自体を「デザイン」した。同社のロゴや広報物をデザインしたばかりではない。伝統的な家具の製造からモダニズムへの転換はネルソンの前任者ギルバート・ロードによってすでに進められていたが、ネルソンはそのイメージをさらに強固なものにした。家具を配置した室内写真をふんだんに載せた高品質なカタログをつくり販売する。同社の顧客である建築家たちがそのような見せ方に興味を持つことを想定してのことだ。いわばCI、ブランドづくりとも言える仕事である。ネルソンがこのように幅広い視点から家具デザインを見ることができたのは、彼が多くの建築家たちの仕事に学んでいたからに違いない。1959年にモスクワで開催された「アメリカ博覧会」の展示デザインをネルソンが手がけることになったのも、高所からデザインを俯瞰する才能があってのことだろう。
 ジョージ・ネルソンは日本とも少なからぬ縁がある。1957年、ネルソンは産業工芸試験所の招きで来日し、デザイン講習会を開催している。その際には、アメリカ市場における日本製家具と北欧家具の位置づけの違いを指摘するなど、デザインとものづくりのあり方について現代にも通じるコメントを数多く残している★2。ハーマンミラー社の仕事を始めてから10年余が経過し、彼のデザインや批評の仕事は日本の工業デザイナーたちにも良く知られた存在であった。帰国後のネルソンは日本デザインの伝道者として日本での体験をアメリカの雑誌に寄稿したり、グラフィックデザイナー・岡秀行が企画した日本のグラフィックデザインと伝統的パッケージデザインの展覧会をニューヨークで開催。また岡の著書『5つの卵はいかにして包まれたか』英語版(Hideyuki Oka, How to Wrap Five More Eggs: Traditional Japanese Packaging, 1975)に序文を寄せている★3。目黒区美術館展では日本独自の企画として、これらの関連資料を展示するコーナーを設けている。
 プロダクト以上に思想において重要な仕事を残したジョージ・ネルソンだが、美術館での企画展であるからモノを中心とした展示になるのはやむを得ないだろう。彼が制作した映像作品は、その思想を理解する手掛かりとなる。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムが制作した図録には図版の他に充実した論考が収められているが、残念なことに英語版とドイツ語版のみである。翻訳に手を上げる出版社はないものだろうか。
ポスター、チラシ、リーフレットのデザインは中野豪雄氏。チラシは8種類が用意され、並べるとポスターと同じデザインが現われるしかけだ。[新川徳彦]

★1──マイケル・ウェッブ『ジョージ・ネルソン』(フレックス・ファーム、2003)15頁。目黒区美術館の降旗千賀子学芸員は、同様の理由でネルソンと工業デザイナー秋岡芳夫の仕事の類似を指摘している。
★2──その様子は『工芸ニュース』26巻2号に掲載されている。https://unit.aist.go.jp/tohoku/techpaper/pdf/3859.pdf
★3──岡秀行が蒐集した日本の伝統パッケージは目黒区美術館が所蔵しており、同館では1988年と2011年に展覧会を開催している。


展示風景(上から2枚目の展示什器はヴィトラ・デザイン・ミュージアムの制作)

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2014/08/28(木)(SYNK)

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2014年09月01日号の
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