artscapeレビュー
2015年11月15日号のレビュー/プレビュー
畑友洋《house K》
[兵庫県]
神戸・三宮近くの畑友洋が設計した元斜面の家へ。近代以降に造成を繰り返し、失われた傾斜の輪郭を大きな屋根がなぞり、仮想的に斜面を復元するプロジェクトだ。正面からは家型だけが見え、開口がなく閉じた印象だが、内部に入ると一転して、上下への見通しがダイナミックに展開する。古屋の解体時、基礎を一部残した下部の庭も興味深い。
2015/10/22(木)(五十嵐太郎)
島田陽《石切の住居》
[大阪府東大阪市]
竣工:2013年
東大阪にて、島田陽による石切の住居を見学する。彼はシンプルな家型の作品で知られているが、これは多様な素材を用い、いろいろなかたちを組み合わせた複雑な建築である。写真では大きい印象だったが、実際は親密なスケールであり、細かく上下のレベルを調整している。ポストモダン的でもあるが、自律的な記号操作で終わらず、周辺環境を読み込んだ空間として成立させる。
2015/10/22(木)(五十嵐太郎)
中国建築家連続講義第1回 王昀(WANG Yun)──21世紀北京の都市建築論
会期:2015/10/23
東北大学青葉山東キャンパス[宮城県]
東北大学にて、北京の建築家、王昀を招いて、レクチャーが行なわれた。日本に留学したときのアイデア・コンペを契機に始めた、建築と音楽、あるいは書を接続する実験的なフォルマリズムの探求が興味深い。もっとも、ただ理論で終わらせず、実際に1/1の模型としてパヴィリオンを大学構内に建設している。その手法は、いわば楽譜を図形とみなして、平面化するものだが、実際に三次元化するには、別の要素が必要だ。すなわち、高さ、比例、素材、大きさのたしかな感覚があるからこそ、建築化してもおかしくない。また派手な造形を好む中国では必ずしもすんなりとは受け入れられない、白いモダニズム的な自作に、自ら突っ込むスタイルの講演も新鮮だった。
2015/10/23(金)(五十嵐太郎)
菊畑茂久馬個展「春の唄」
会期:2015/09/26~2015/10/23
カイカイキキギャラリー[東京都]
カイカイキキで菊畑茂久馬とは意外な気もするが、グルッと1周回って行きつくところに行きついたともいえる。作品は200号を3枚つないだ大作絵画が壁に1点ずつ計4点。描かれている内容は4点ともほぼ同じで、キャンバス上辺から下辺に行くに連れて幅が狭くなる逆台形に色を塗り、中央に縦の空白をつくってそこに水玉やストライプを入れている。逆台形の色彩はそれぞれ淡い赤、青、黄、緑のパステルカラー。このキャンバスの巨大さと逆台形はちょうど、木枠に張らない布に絵具を流して染めたモーリス・ルイスのヴェール絵画を想起させるが、つくり方は正反対といえるほど違っていて、菊畑のそれは偶然の入り込む余地がないほど周到に計画され、工芸的といえるくらい丹念に仕上げている。工芸的といえば、畳部屋の100号3点はいずれも線による表現で、より工芸的かつ日本的な印象を受ける。菊畑にとってこれまで「戦争と人間と芸術」が大きなウェイトを占めていたが、新作では「その呪縛から解き放たれて」美とはなにか、芸術とはなにかを問うものになったという。平たくいえば吹っ切れたというか。でもその境地がこれだといわれると、なんか肩すかしを食わされたような気がする。境地なんてそんなもんだといわれればそれまでだが。
2015/10/23(金)(村田真)
武器をアートに──モザンビークにおける平和構築
会期:2015/10/17~2015/11/23
東京藝術大学大学美術館[東京都]
サブタイトルに「モザンビークにおける平和構築」とあるように、1975年の独立以来内戦が続いたアフリカ南東部のモザンビークで、大量に供給された武器を農具や自転車と交換するプロジェクトが進んでいるが、その武器の一部が解体されたうえ、アートの素材として使われている。ネガティブなものをポジティブに価値転換するにはアートがいちばんだからね(ポジティブなものをネガティブに変えるアートもあるが)。これらの作品は以前、大阪の民博で見たことがあるので新鮮味はないが、楽しげに楽器を弾く人物像の頭部が銃の一部でつくられていたりすると、ちょっと複雑な気分になる。だが逆に、今回の目玉でもある《いのちの輪だち》のような大作になると、武器が使われてることがわかりづらくなり、ただのヘタな鉄の彫刻にしか見えなくなる。やはりどこかに武器であった痕跡をはっきり残しておかないと、アートとしての緊張感が低下してしまうのだ。ちなみに、使われてる武器は圧倒的にAKB48、じゃなくてAK-47(いわゆるカラシニコフ)が多いようだ。
2015/10/23(金)(村田真)