artscapeレビュー
2015年11月15日号のレビュー/プレビュー
平子雄一「BARK FEEDER」
会期:2015/10/01~2015/10/30
第一生命ギャラリー[東京都]
絵の内容より形式に興味を持った作品。木枠に張ってない3×2メートルほどの大きなキャンバス布を7枚並べて、カーテンみたいに天井から吊るしている。カーテンみたいというのは比喩ではなく、表面がフラットにならず波打ってしまうからだ。これは作者も意図しなかったことだろうが、この波打つ画面を屏風のジグザグ面のように絵画内容に採り込めば、新たな「カーテン絵画」の可能性が開けるかもしれない。
2015/10/23(金)(村田真)
福井来訪──シーラカンスK&H《丸岡南中学校》ほか
[福井県]
福井へ。シーラカンスK&Hによる《丸岡南中学校》は、プログラムが重要な建築であるため、外から見学しただけでは、その特徴は完全にはわからない。黒川紀章が設計した《福井市美術館》は、お得意の円錐ガラスによるエントランスと湾曲する曲面の壁を組み合わせており、国立新美術館とよく似ている。これに対峙する遠藤秀平の《TRANSTREET 下馬》は、美術館のカーブを引き受けながら、スロープが蛇行する公園の遊具的な建築である。そして槇文彦の《福井県立図書館》は、周囲から目立つ赤いキューブのヴォリュームに蔵書を収め、その足下に広がる開架の大空間には、天光が降りそそぐ柱群が並ぶ。
写真:左=上から、丸岡南中学校、同上、福井市美術館、右=上から、福井市美術館、TRANSTREET下馬、同上、福井県立図書館
2015/10/24(土)(五十嵐太郎)
谷澤紗和子×藤野可織「無名」
会期:2015/10/23~2015/11/01
KUNST ARZT[京都府]
美術作家の谷澤紗和子が制作した人形のような陶のオブジェに、小説家の藤野可織が短編小説を書き下ろしたコラボレーション展。子供の粘土遊びのような造形に、目・鼻・口を表わす虚ろな窪みをつけられたオブジェたち。ユーモラスなのか不気味なのか分からない表情で佇む彼らに、1ページずつ文章が添えられ、物語が展開していく。
「名前をつけてはいけない。名前をつけたとたんにお前は死ぬ」。恐ろしげな宣告で小説は始まる。「それもただの死に方じゃない。お前は引き裂かれ、ねじ切られ、ぐちゃぐちゃにつぶされて捏ねくり回された挙句、火でかちかちに焼き固められるだろう」。語られていくのは、名づける行為と存在、名を持たないことと忘却、名前のないものがもたらす恐怖と、名づけることで対象を認識し、分類し、秩序を与えて支配しようとする欲望だ。また、文体の特徴として、「お前」「わたしたち」「彼ら」といった人称代名詞の使用がある。指示対象が括弧の中に入れられて宙吊りのまま、文脈次第で異なる意味が空白に充填される人称代名詞の使用に加えて、冒頭とほぼ同一の文が最後のページに回帰する構造によって、小説を読み返しながら会場を何周も回るたびに、作品の印象がさまざまに変化するのだ。
陶のオブジェたちは、ある時は、目鼻がとれた焼け焦げた死体や拷問で変形した身体のように見え、物体へと還元されて固有名を失くしたもの、フォートリエの《人質》シリーズのように暴力の痕跡として立ち現われる。またある時は、生命を宿したばかりの胚のように見え、不定形で混沌としたエネルギーの蠢く塊、まだ名前を持たない存在を思わせる。あるいは、目鼻だけを彫った稚拙な地蔵像のように、プリミティブで集合的な祈念の形象化のようにも見えてくる。無為なのか底なしの暗闇なのかわからぬ窪みをのぞき込むと、釉薬のように色づいた表面が照り光っている。これは、貝殻を陶土に埋め込んで窯入れすることで、焼けた貝殻が釉薬のように色と光沢感をもたらすのだという。ここで、二枚貝が女性器の象徴として用いられてきたことを思い返すならば、頭部や腹部にぱっくりとした割れ目をもったオブジェたちは、解剖された標本のような不気味さのなかに、密やかなエロスを開示する。マジカルな仕掛けを駆使した小説との相互作用により、谷澤の陶オブジェは、そうしたさまざまな連想を許容する包容力を備えていることを示していた。
2015/10/24(土)(高嶋慈)
黄金町バザール2015──まちとともにあるアート
会期:2015/10/01~2015/11/03
京急線「日ノ出町駅」から「黄金町駅」間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外、他[神奈川県]
黄金町バザール2015へ。アジア各国からの作家を招待し、街の随所に作品を展示する。新機軸を狙うとか、派手な規模ではないが、いかに持続させるかを大事にしている展開だろう。アートだけではなく、川嶋貫介による家の中の家、アイボリィアーキテクチュアによる縦長の吹抜け、中村建築のバスタブ仕上げのインテリアなど、建築家のリノベーション的な介入も設けられているので楽しめる。
写真:左上=黄金町バザール、左下=川嶋貫介、右上=アイボリィアーキテクチャ、右下=中村建築
2015/10/25(日)(五十嵐太郎)
カンパニー マリー・シュイナール「春の祭典」「アンリ・ミショーのムーヴマン」
会期:2015/10/24~2015/10/25
KAAT神奈川芸術劇場[神奈川県]
「春の祭典」は、ニジンスキーにさかのぼり、その多重化のようなエネルギッシュな舞台だった。それにしても、これはさまざまなカンパニーがしばしば使うように、ダンサーに愛される曲だ。後半の「アンリ・ミショーのムーヴマン」は、スクリーンに次々と投影される原初的な人のようなイメージを、瞬間的に身体で三次元化しながら表現する。息もつかせないスリリングな展開だった。
2015/10/25(日)(五十嵐太郎)