artscapeレビュー

2015年11月15日号のレビュー/プレビュー

始皇帝と大兵馬俑

会期:2015/10/27~2016/02/21

東京国立博物館 平成館[東京都]

院生のときに、1カ月中国を旅行し、西安まで足をのばして現物を見たが、今回はそのごく一部や複製を展示している。支配した場所に自国と同じものを建てるのはよくあるが、始皇帝は他国を征服すると、そこの宮殿と同じものを秦に建設したというエピソードがぐっとくる。もし、この時代に海を簡単に越えられたら、圧倒的なテクノロジーの差によって、完全に日本は征服されていただろう。

2015/10/27(火)(五十嵐太郎)

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新井卓『MONUMENTS』

発行所:フォト・ギャラリー・インターナショナル

発行日:2015年9月1日

新井卓はここ10年ほど、ダゲレオタイプの作品を制作・発表している。ダゲレオタイプはいうまでもなく、1839年にルイ・ジャック・マンデ・ダゲールがその発明を公表した「世界最初の実用的な写真技法」であり、金属板に沃化銀で画像を定着するためには、複雑で手間のかかるプロセスを経なければならない。しかも新井が撮影しているのは、福島第一原子力発電所の事故現場の周辺地域、死の灰を浴びた第五福竜丸の展示館、アメリカ・ニューメキシコ州の核実験サイト、長崎・広島の原爆遺構や遺品など、アクチュアルな歴史的、社会的な「現場」ばかりだ。普通なら「報道写真」として大量に印刷・公表されていくような被写体を、わざわざ一回の撮影で一枚の写真しか残すことができないダゲレオタイプで制作しているところに、新井の意図が明確にあらわれている。つまり、日々消費され、忘れ去られていく出来事を、あえて「モニュメント」として時の流れの中に屹立させようというもくろみなのだ。
さらに今回、2011年の東日本大震災以降に制作された作品をまとめた写真集を刊行するにあたって、新井は「ダゲレオタイプを印刷するという矛盾」(竹内万里子)も引き受けようとしている。それは複製が不可能であるというダゲレオタイプの特性を否定することに他ならない。だが大西正一によって丁寧にデザイン・造本された黒い箱入りの写真集は、別な意味でそれ自体が「モニュメント」性を獲得しているように見える。新井の仕事につきまとう矛盾や逆説は、マイナス札が揃うとプラスに転じるような効果をもたらしているのではないだろうか。

2015/10/27(火)(飯沢耕太郎)

中里和人『lux WATER TUNNEL LAND TUNNEL』

発行所:ワイズ出版

発行日:2015年10月5日

中里和人は全国各地に点在する仮設の「小屋」を撮影した代表作『小屋の肖像』(メディアファクトリー、2000年)を見ればわかるように、あまり人が気づかない魅力的な被写体を見つけ出す能力に優れている。本書では、千葉県(房総半島)と新潟県(十日町周辺)に残る、素堀のトンネルをテーマに撮影した写真を集成した。
これらのトンネルは、江戸時代以降に、蛇行する川の流れを変え、かつての河床に水田を開発するために作られたものという。房総では「川廻し」、新潟では「瀬替え」と呼ぶ新田造成のために掘られたトンネルは「間府(まぶ)」と称される。この名称は、どうしてもこの世(光の世界)とあの世(闇の世界)を結ぶ通路を連想させずにはおかない。中里の写真では、トンネルの入口から射し込む光(lux)の圧倒的な物質性が強調されているのだが、これらの写真群は、死者の目で見られた道行きの光景を定着したものといえるのではないだろうか。
そのような、象徴的な意味合いを抜きにしても、素堀の壁に残るツルハシやノミの痕跡、剥き出しになった地層、地下を流れる水の質感、動物の骨や足跡など、それ自体が被写体として実に豊かなディテールを備えているのがわかる。とりたてて特徴のない田園地帯の足下に、このような「日常と非日常を往還するニュービジョン」が隠されていたことは、驚き以外の何ものでもないだろう。このテーマは、さらに別な形で展開できそうな気もする。

2015/10/28(水)(飯沢耕太郎)

尾形一郎/尾形優「沖縄モダニズム」

会期:2015/10/03~2015/11/07

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

建築物を被写体としてユニークな写真作品を発表し続けている尾形一郎と尾形優。今回の個展のテーマは「沖縄モダニズム」である。沖縄では、戦後アメリカ軍が軍用物質として持ち込んだ穴あきのコンクリートブロックが各地に普及し、建築資材として利用されていった。それらは、日本の伝統的な「木割り法」を用いた鉄筋コンクリート建築と合体し、柱と梁はコンクリートでありながら、機能的には民家の構造を持つユニークな住居建築を生み出していく。そのミニマルな、「構成主義」的な外観を持つ建物に、装飾的な要素を付け加えているのがコンクリートブロックなのだ。
今回の展示では、4×5インチカメラの大判カメラで撮影された「街並」シリーズから5点と、那覇出身の彫刻家の能勢孝二郎が、コンクリートブロックを素材に制作した作品を、1点ずつ標本のように撮影した「彫刻」シリーズ32点が並んでいた。「沖縄モダニズム」の応用形というべき街の眺め(カラー)と、その基本単位であるコンクリートブロック彫刻(モノクローム)を対比することで、沖縄の「自然や伝統や生活、そこに軍事的環境が進入して、アブストラクトとして表現されることが日常となった時代」があぶり出されていく。これまでの彼らの作品と同様に、目のつけどころと、それを作品として再構築していく手続きは鮮やかとしかいいようがない。
なお彼らの「沖縄モダニズム」の建築物に対する考察は、先に羽鳥書店から刊行された『沖縄彫刻都市』で、写真図版とともに緻密に展開されている。そちらも、あわせて一読していただきたい。




上:尾形一郎/尾形優「街並」シリーズ
下:尾形一郎/尾形優「彫刻」シリーズ
© Yu OGATA & ICHIRO OGATA ONO / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film, Tokyo

2015/10/28(水)(飯沢耕太郎)

ニュータウン♥ゴースト

会期:2015/10/04~2015/11/01

大塚・歳勝土遺跡公園[神奈川県]

港北ニュータウンに隣接する大塚・歳勝土遺跡公園で行なわれてきた都筑アートプロジェクト、今年は特に復元された竪穴住居が並ぶ大塚遺跡に集中的に展示している。橋村至星は竪穴住居内に段ボールを立て、表面にシールやテープを貼っているが、もっと段ボールハウスっぽくつくって入れ子状にすればよかったのに。阿部剛士は高床倉庫の下に新聞紙を固めた疑似石で枯山水をつくった。いちおう龍安寺の石庭と同じ配置だそうだが、とてもそうは見えない。とし田みつおは遺跡公園の端に白くて四角い箱をいくつか置き、物見台にもベンチにも使えるようにした。ここから柵越しにニュータウンを見下ろせというメッセージか。松本力は黒板に対角線や水平・垂直線を引いてイーゼルに置いた。なんだかわかんないナゾめいたとこがいい。全体にもっとスケールアップ、レベルアップすれば人が来るだろうに。

2015/10/29(木)(村田真)

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