artscapeレビュー
2016年07月15日号のレビュー/プレビュー
生きるアート 折元立身
会期:2016/04/29~2016/07/03
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
アーティストはだれしも自分の「生」とアートの一体化を夢見るが、「生」のほうは本人もコントロールできない偶然性に支配されるため、いつ、どこで、どんなふうにアートと合体するかわからない。折元の場合1990年代なかばに父が亡くなり、アルツ気味の母の世話をしなければならなくなったことから、なかば強引に生活とアートが合体した。せざるをえなくなった。それが「アート・ママ」シリーズだ。母の幼少期の苦い思い出を元に、巨大なハリボテの靴をはかせて写真に収めた《スモール・ママ+ビッグシューズ》、ベートーヴェンの「運命」に合わせて母の髪の毛を逆立てたりする映像《ベートーベン・ママ 川崎》など、母をモチーフにした連作を発表。いけない言い方だが、母がアルツを背負ってアートに闖入してきた感じ。折元にとっては新たなモチーフの発見であると同時に、母の再発見でもあったのではないか。さらに、介護の合間に抜け出して飲み屋で息抜きする1時間に、メモ用紙の裏に描いた500点ものドローイング《ガイコツ》や、海外で500人もの老婆を集めて食事をふるまうパフォーマンス《500人のおばあさんの昼食》など、「アート・ママ」から派生した作品もある。特にガイコツのシリーズは圧巻、ドローイングに感動するのは久しぶりだ。第2会場では、フランスパンを顔につけて街を練り歩く「パン人間」シリーズをはじめ、70-90年代の作品を中心に紹介しているが、どこか浮いているというか、「アート・ママ」ほどの説得力が感じられないのは、生とアートが一致していないからだろうか。逆にだから尾を引くような重苦しさがなく、安心して笑って見てられる面もある。いやあ見てよかった。
2016/06/12(日)(村田真)
シリーズ・映像のクリエイティビティ ナム・ジュン・パイクとシゲコ・クボタ ─折元立身が70年代ニューヨークで出会ったアーティストたち
会期:2016/04/09~2016/07/24
川崎市市民ミュージアム・アートギャラリー1[神奈川県]
折元がニューヨーク滞在中の70年代にアシスタントを務めていたナム・ジュン・パイクと、妻の久保田成子のビデオアートを紹介。歴史的には価値ある作品だろうけど、時代的に先端であればあるほど色あせるのは早い。なにより折元展の感動覚めやらぬいま見せられてもね。
2016/06/12(日)(村田真)
シリーズ・川崎の美術 樋口正一郎・井川惺亮展
会期:2016/04/09~2016/07/24
川崎市市民ミュージアム・アートギャラリー2・3[神奈川県]
折元とほぼ同世代、ともに1944年生まれの樋口と井川の展覧会。ふたりとも80年代に作品を見ていたが、どちらも枠に張らない布や木材に原色を塗ったような絵画というかインスタレーションだった。この「絵画というかインスタレーション」というのは80年代にけっこう流行ったスタイルで、フランスのシュポール/シュルファスの影響が色濃かったように思う(井川は南仏でクロード・ヴィアラに師事していた)。ところがその後、樋口はパブリックアートの制作および調査研究にのめり込み、井川は長崎大学に赴任して、作品をばったり見なくなってしまう。だから今回ふたりの作品を見るのはほぼ30年ぶりといっていい。なんだ、ぜんぜん変わってないじゃん、と思ったのは井川の80年代の旧作で、さすがに近作・新作はずいぶん変わった。ふたりとも基本的に画面が四角いタブローになった。樋口はパブリックアートも手がけているせいか材質も形態も多彩で、レリーフ状の作品もあるが、井川は画面に絵具を垂らしてクモの糸のように線を張り巡らせ、線と線のあいだにできた余白に色を置いていく、いわば塗り絵の手法で描いている。でも変わらないのはふたりとも原色を用いることと、具象形態を描かないこと。
2016/06/12(日)(村田真)
BankART AIR 2016 特別展
会期:2016/06/13~2016/06/20
BankART Studio NYK 2F[神奈川県]
先日までやっていた「BankART AIR オープンスタジオ」の選抜展。これはBankARTスクールの「BankART義塾 part2」の授業の一環で、オープンスタジオを見たゼミ生がそれぞれ気に入った1点を選び、アーティストに交渉して作品を借り、チラシをつくり、展覧会を構成し、あわよくば販売にまでつなげようという魂胆だ。選ばれたアーティストは、片岡純也+岩竹理恵、Bico Kondo、廖震平、松田直樹、関本幸治、三田村龍伸ら。作品の大半は先週見たものだが、新作をつくったアーティストもいる。人数が絞られた分会場が広く使え、より展覧会らしくなった印象だ。ゼミ生の稲吉稔はAIRに参加したグループ「似て非works」の代表でもあったため、自分(似て非works)を選んだのだが、これがなかなかの傑作。床に巨大な扇風機を上向きにセットし、天井から吊ったスカート状の半透明の布をフワッと浮き上がらせる装置なのだ。デュシャンとマリリン・モンローを合体させたような、身もフタもない色香を漂わせていた。肝腎の販売のほうは……みんな低調だったみたい。
2016/06/13(月)(村田真)
8日間のアートフェア vol.2
会期:2016/06/11~2016/06/19
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
黄金町のレジデンスに滞在中のアーティスト15人によるアートフェア。大半が女性で、作品は絵画、写真、彫刻と多彩。BankARTのオープンスタジオにも出ていた岩竹理恵の樹木の写真がいい。背景を白く飛ばして木を1本だけ浮き上がらせている。セピア色のモノクロ写真で、ちょっとカール・ブロスフェルトを思い出させるなあ。木漏れ日のような淡い光を捉えた井上絢子の絵もそそられる。背景が黒い夜の木漏れ日(木漏れ月?)もあって惹かれるのだが、なにか足りない気もする。画面に引っかかりというか抵抗感がなく、視線が上滑りしてしまうのだ。結局なにもカワズにカエル。
2016/06/14(火)(村田真)